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「リュウ&コウシリーズ(BL・完結)」
素描

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コウは、目映い初夏の光の中で目を覚ました。
今日は、久しぶりにゆっくりとできる休み。

リュウはもうとっくに出かけているだろう。
日曜日だから、ほとんどの現場は休みのはずなのに、そんなときに限ってリュウの雇い主であるヨンスは様々な建築物ツァ~に出かける。
まるで大学生のゼミじゃないかと内心思いつつ、リュウが嬉々として出かけるのを知っているから黙っている。
朝だって、ヨンスに嫉妬していることを悟られたくなくて、わざと起きてやらない。
リュウはそれを知っているのか、気づかないのか、あえてコウを起こさずに出て行ってしまう。
昨夜だって別々に寝たのだから、せめて、コウの部屋をそっと覗くくらいの優しさは見せろとぼやきたくもなるが、でも、もし、リュウが顔を見せたら、そのままベッドに引きずり込んでしまうと予想できるので、リュウの判断は正しいと言わざるを得ない。

しかし、一人の休日くらいつまらないものはない。
だから、目が醒めてもベッドの中でぐずぐずと音楽を聴いたり、テレビを見たりして過ごし、午後も遅くなってやっとごそごそと這い出した・・・ということだ。

時計を確認すると、もう2時を過ぎている。
道理で腹もすくはずだ・・・と、冷蔵庫から牛乳のカートンを取り出し、そのまま口をつける。
リュウが帰ってくるまでに後何時間かなと、ぼんやり考える。

せめて夕食くらい一緒に食いたいな。
最近、顔を合わせている時間が本当に少ないなと、思う。
一緒に暮らしているというのに、お互いの帰宅時間は遅く、休日も重ならない。
リュウはヨンスからの課題も多いのか(学生かよ、マジで!!←まだ、彼は大学生のままだけれど)、帰宅してからもドラフターやパソコンに向かっている時間が多い。
ロットリングを握ってドラフターに向かっている彼を邪魔すると本気でしぶい顔をするので、そうそう邪魔もできない。

先日も、彼のシングルベッドに横になって、ドラフターに向かう背中に、
「CADでやんないのか。CADを使わないなんて、時代錯誤だろう」
とうっかり口走ったら、「邪魔だ」のひとことで追い出されてしまった。

それが恋人に対する態度かと猛烈に腹が立ったが、でも、ドラフターに向かう真剣な眼差しにさえ、こっちはぞくぞくしてしまうのだから仕方がない。

惚れた弱み、先に気持ちを告白してしまったこっちの負けだなと、コウは苦笑する。

けれど、今夜はこっちの部屋に引きずり込んでやる。

こっちはたっぷり睡眠をとって体力を温存したという強みもあるし、絶対に負けたりしないぞ♪

・・・ということで、コウはぼちぼちとマンションの中を掃除して・・・、もちろん、自室のベッドには例のブラックシーツ。

リュウが嫌がるので、引越しの夜だけしか使ったことはなかったが、今夜は有無を言わせない!と、コウはほくそえんだ。

夕方6時ごろ、リュウから電話が入り、夕食は近くの定食屋で待ち合わせた。
まだ夏も浅いというのに、明日も晴天になると饒舌に語ってくれる夕焼けの中に立っているリュウは、少し疲れた表情を貼り付けていた。
まだ現役でバスケットをやっていた頃は、どれほど激しいゲームを重ねてもメンバーの前では疲れた顔なんか見せない男だったのに、とコウは思う。

けれど、それが、キャプテンとしてのリュウだった。
絶対に弱みを見せない。

今、彼はヨンスという上司に恵まれて、さまざまな人に甘えることを知った。
そして、コウと愛し合うことで、自分の弱い部分をさらけ出してもいいのだと知ったのだと、あらためてコウは思う。

哀しいほどに鮮烈な色を見せる夕焼けは、そんなリュウをくっきりと浮かび上がらせている。

多くの人間に囲まれながら、孤高だったからこそ愛した。
多くの人間に信頼され、いつも微笑みながらも寂しそうだったから目が離せなかった。

いつも自分に一番厳しくて、いつもすべてを背負ってしまおうとするから、追いかけていくしかない。
追いかけ、引き寄せ、それでも足りないとその目が言うから、さらに苛むしか術がない。

「コウ」

少しだけ距離を置いて自分をみつめる恋人の名前を、リュウはいぶかしげに呼んだ。
コウはその声に安心したように頬を緩めると、「今日はどこを回ったんだ?」といいながら歩み寄った。

「ん。ほとんど廃屋に近い建物を幾つか。
再開発に引っかかってもうなくなるというから、写真を撮って大きさを調べて・・・。
おかげで埃だらけだ。
フィールドワークが好きだからな、あの人。
その上、今日はリュ・ジンウssiまで引っ張り出していた。
いつか資料集でも作るつもりかな、うちの気まぐれオーナーは」

気だるそうに、けれどどこか楽しげに言うリュウの肩をグイと引き寄せる。
ヨンスに焼き餅を妬いているなんて気づかれたくなくて顔を伏せて、でも、「お帰り」というと、「ただいま」と優しい声で言われて、それだけでもうコウは満足してしまう自分に呆れる。

女性と付き合っていたころには、そんな些細な喜びに気づかなかった。
恋人のひとことひとことがこんなに愛しいなんて、想いもしなかった。

リュウの唇から零れる小さな言葉に耳を澄ませ、一喜一憂する自分がひどく新鮮で、コウは自分の変わりようにも驚く。

「なぁ、リュウ」
「ん?」
「早くメシを済ませて、部屋に帰ろう」
「その前にシャワー」
「了解。一緒にな」

くすくすと笑いあいながら定食屋に入ると、コウは大きな声でリュウの好きなメニューをオーダーした。


「コウ・・・。あのさ・・・」
「ん?」

下半身だけを真っ白なバスタオルでまいて、頭をごしごし拭きながら自分の部屋に戻ると、リュウがうんざりとした目で振り返る。
半分照明を落とした部屋は月の光だけで満たされている。
その中に、リュウの目だけが月の光を反射して蒼い。
もちろん彼の前には、闇に沈むベッド。

「これ・・・、止せって言っただろう?」
「いいじゃないか、どうせ、お前にはあまり関係ない。俺のタノシミ」
「・・・って・・・」

リュウはもう一度ベッドに視線を落とした。

「なんだか・・・」
「んあ?」

言いよどむリュウを通り越して、コウはタオルを机に放り投げると、ベッドの上に無造作に腰を下して彼を見上げる。

「なんだよ」
「・・・ヘンな気分になる」

居心地悪そうにつぶやくリュウを見て、コウは、にんまり微笑んだ。

「だから、いいんじゃないか。こいよ」

しばらくリュウはそんなコウを見ていたが、いきなりくるりと背中を見せると、ドアノブに指をかけた。

「リュウ!!」
「・・・崩れる」
「あ?」
「・・・お前といると、自分がどんどん変わっていくのが分かる。
時々、それが無性に怖くなる」

あえて表情を落とした口調を保とうとしているリュウの背中に腕を伸ばし、コウは背後から強く抱き寄せた。

「リュウ。俺だって自分が変わっていくのを自覚しているよ。
お前と一緒にいると、自分がまともになっていくような気がする」
「まとも・・・って」
「・・・愛を愛だと自覚すること。愛する人間を守りたいと思う気持ち。
お前だけだ。
ほかの誰を傷つけても、お前だけは守りたいし、ほしい。
今までは、誰かを傷つけても自分だけは傷つかない道を無意識に選んでいた。
でも、今は違う。
これが本当に、まっとうな道なんだって、この年になって初めて分かった」
「まっとうって・・・」
コウの腕の中で、リュウが苦笑している。

確かに、一般常識から言えば、まっとうじゃないな。
でも、これが俺の真実だ・・・と、コウは思う。

それをリュウにも分かってほしい。

「コウ」
「ん」
「引き返せないンだよな?」
「引き返したいのか、お前?」
「いや・・・。お前を失ったら、僕は多分・・・」
「多分?」
「多分・・・じゃなくて」
「ん?」
「絶対に・・・」
「ン、何だよ、はっきり言ってみろよ」
「お前を失う前に、自分を見失ってしまう」

ほんのかすかに苦さが滲む声音に、コウはリュウの肩に自分の頭を乗せた。
彼を抱きしめた腕にさらに力を込める。

「リュウ、寝ようよ。一緒に。1週間、俺は我慢したんだから。褒めてくれよ」
「・・・コウ」
「最大限の褒め言葉を期待しているぞ」
「・・・ほしい」



リュウの目じりから次々と落ちてゆく涙を、綺麗だとコウは思う。
リュウはそんな自分を知らない。

この男をそこまで堕とせるのは自分だけなのだと思うと、それだけでコウは自分が猛々しくなってしまうことを知る。

「崩れる」と、リュウは図らずも言ったが、コウはそれを知っている。
リュウはまさに崩れていこうとしている。

二重人格なのかと思うほどに、一人で立っているときのリュウと、コウの腕の中にいる彼は違う。
これほど変わるものなのかと、コウ自身、時に戦慄を覚えるほどだ。

「リュウ、つらくないか」
「・・・熱い」
「ん?」
「お前が・・・熱くて、う・・・っ、あ・・・」

伸ばされた腕が緊張し、ブラックシーツに指が食い込むのを横目で確認し、コウはリュウの中の昂ぶりの大きさを認めた。
筋肉が浮かび上がる腕に指を這わせれば、小刻みに震え出すのが分かる。

「リュウ、声たてていいんだぞ」
「あ・・・っ、いや・・・、コウ、やめ・・・あぁ」

「やめてほしい」と哀願するのは、その崩れていく自分を繋ぎ止めたいという最後の望みだ。
けれど、いつもリュウは、あっけなくその望みを手放してしまう。

「リュウ、もっとほしいか?」
耳元で含み笑うと、恨みがましい目が下から見上げてくる。
けれど、すぐにその目が光も朧に砕け、閉じられる。
リュウの返事を待たずに動き出したコウに、のどを大きく反らせて応え、それから珍しいことに甘えるようにコウの裸の胸に頬を摺り寄せた。
コウの指を捜し、迎えに行くと指を絡ませる。

「どうした?」

問うと、またリュウの目から涙が零れ落ちる。

「リュウ?」
「もっと、ほしい」

蒼い月の光は、ベールになってリュウの上にその裳裾を広げていた。
翳りを帯びて漆黒となったブラックシーツが大きくうねり、不可思議な波を幾重にも刻み、また解け、また刻み込む。
その闇の中で、リュウがのたうつ。

「リュウ」
「コ・・・ウ。カタチ・・・」
「ん?」
「カタチあるものは、いつか崩れる」
「ああ・・・」
「時間と、環境が・・・」
「リュウ。お前、そんな難しい話は後にしろ」

思わず苦笑すると、その微妙な動きだけで、リュウが大きく震えた。

それほどにすべての感覚が鋭く研ぎ澄まされて、尖り、コウだけを求めている。
快感という無垢の魂だけになって、コウの腕の中で怯えているかのようだ。

「こう・・・。コウ」
「何?」
「時間が・・・、時が建物・・・建物の内部から、・・・崩してゆく」
「ああ」
「朽ち果てて、う・・・、あぅ・・・」

大きくのたうちながら、リュウはコウを探す手から力を抜かない。

今、リュウの脳裏には今日見た建物の残骸が映し出されているのだと、コウは悟る。

時間という無慈悲な手によってぼろぼろに崩壊してゆくカタチあるもの。
荒廃し、打ち捨てられ、それでも自分では消えてしまうことができずに惨めな姿をさらさざるを得ない存在。
やがて、ブルドーザーや乱暴な人の手によって無残に崩され、悲鳴とともに崩れ落ちるまで、そこに在らなくてはならない不条理。

「・・・崩れる」ことを恐れるのは、今、リュウの中に残影として映し出されているものと無関係ではないのだろう。

「コウ・・・。くっ・・・う・・・、もっと」
「・・・分かった、だから泣くな」

ぐっと腰を深めれば、リュウがまた大きくのけぞった。

自分の体の奥深く潜みこんできてその圧倒的な存在を生々しく主張するコウに、リュウはすべてを投げ出していた。

リュウは今日はひどい虚無感に襲われていた。

ヨンスに連れて行かれた現場はあまりに無残で、いずれ自分が手がけたものもこんな形でさらされることになるのかと思うと、虚しさにとらわれた。
多分、そんなリュウの気持ちをヨンスは誰よりも知っている。

「忘れられてしまうにはあまりに惜しいんだ」
としかヨンスは言わなかった。
後は淡々とジンウに指示して、夥しい枚数の写真を撮っていた。

「リュウ。よく見ておけ。
カタチあるものは必ず崩れる。
それは誰にも逆らえない。
だからこそ美しいと人は言うが、この醜さを覚えていてこそ、その言葉の本当の意味が分かる」

醜いのか・・・と、リュウは思う。
コウの前で崩れてゆく自分が。

常に背筋を伸ばして一人で立つことを課していたのに、コウの前では、そんな自分を保つことができなくなってしまった。

そんな自分を目の前に突きつけられたようで、無性にコウが恋しくなった。

今、自分を猛々しく穿つコウに、その虚無感と背中合わせの飢餓感を満たされ、涙が零れてゆく。
切なさや愛しさを伝えるために、「崩れる」ことを恐れる自分をさらしたが、コウはちゃんと受け取ってくれたのかどうか。
けれど、今、自分をしっかりと抱き、荒い息を吐きながらもみつめてくれる目を見れば、大丈夫なのだと安心する。

「コウ・・・」
「リュウ、お前、本当に綺麗だ」

体の奥深い場所を満たす重い痛みと快感に、リュウはさらに駆り立てられてコウの背中に爪を立てる。
ブラックシーツの上の自分。
狂態と嬌態と。
けれど、コウの前ならば、すべてをさらしてもかまわない。

「コ・・・頼む」
「何」
「もっと・・・もっと、コウ」

自分を埋め尽くす歓喜よりもさらに深い愉悦を。

貪婪に自分を求める恋人を抱きながら、コウは最後の高みを駆け上る。





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