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「二次創作(冬のソナタ)」
イ・ミニョンとして

イ・ミニョンとして

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光が、多分、たっぷりと注いでいるのだろう。
肌にやわらかく触れてくる。

先ほど開いてもらった窓から、風が部屋に流れ込んでくる。
遠くの歓声が聞こえる。

病院の庭をそぞろ歩く人たち。
噴水の水音、木の葉のざわめき。

軽いノックが聞こえて、誰かが部屋に入ってくる。

「母さん?」
「ええ、よく分るわね、ってこの間も言ったわね」

くすりと笑いながら、軽いヒールの音を響かせて、
母が傍らに立つ。

「今日、帰ってきたの?」
「ええ、さっき空港に着いたのよ」
「ああ、そうだね。母さんに、いろんな匂いがまとわりついている。
空港の匂いだ。」
母は、そっと抱き寄せてくれる。
僕も母を抱き寄せる。

いつも背の高い僕のほうが母を胸に抱いていたのに、
今は、僕が母の胸に抱き寄せられている。
子供の頃に戻ったみたいに。

「ソヨンは?」
「ん、もうすぐ来る頃だと思う。今回のイタリア公演はどうだった?」
「いつもながら、イタリアの人たちは熱狂的ね。
選曲をもう少し考えればよかったわ。
アンコールが延々と続いて、
帰ってこれないんじゃないかと思ったくらい」

「セレナーデ・・・」
「何?」
「母さんの演奏は、情熱的でけれんに富んだ曲のほうが評価されているけれど、
僕は、母さんのセレナーデ、好きだよ。
特に、あまりテクニックを求められない曲、
素直に、感じるままに・・・」
「カン・ミヒファンには、ちょっと物足りないかもしれないわ」
「そうだね」

「母さん、覚えてる? あの古いアパート」
「古いアパート?」
「そう、ソウルの小さな、古いアパート。
ぼくがまだ4歳か5歳の頃」
「なんの話かしら?」

「僕は覚えているよ。
まだ母さんのピアニストとしての評価は低くて、
だから、母さんは、練習ばかりしていた。
古いアパートだから、窓を閉めて、厚いカーテンを閉めて、
それでも、うるさいって怒鳴られて、だから窓やドアにはついたてまでたてて。
その中で、母さんは1日に何時間でもピアノを弾いていた。
暑い夏の日は、それこそ蒸し風呂のようだった。
でも、母さんは、何時間も何時間も。

僕はその横で、小さなおもちゃのピアノをあてがわれて、
ひもじいのも我慢して、一緒にピアノをたたいていた。
時々、母さんが言うんだ。
ジュンサン、違う、その音はファでしょ。
あなたは今、ミを弾いたわって。

自分の練習に集中していると思って、こっちは退屈しのぎで弾いているのに、
母さんは、ちゃんと僕の音も聴いていたんだ。

怖かったな・・・」

「ジュ・・・、ミニョン」

「不思議だね。
光を失って思い出すのは、昔の事ばかりだ。
ジュンサンだった頃のことばかり。
当然だよね。
ミニョンとしての17年間は、この目で見た映像はないんだもの。
ミニョンになってからの10年間は、鮮明すぎて、今の僕にはまぶしすぎる」

「ミニョン、ジュンサンだったときのことは・・・」
「母さん、いつか春川の家で、僕に言ったよね。
ジュンサンだった頃の僕は、つらくて苦しい事ばかりだったって。
だから、僕にお父さんを与えて、生まれかわらせてあげたかったって。

でも、母さん、僕は・・・」

「兄さん、遅くなってごめんなさい!」
ソヨンがノックもしないで入ってくる。
「あ、ママ、お帰りなさい!」
二人が再会のハグをしているのが気配でわかる。
すずらんの香りと、クラシックなレディミツコの香りが入り混じり、
賑やかなおしゃべりが続く。

この二人は本当の親子のように仲がいい。
僕のために「本当の親子ごっこ」を10年間続けているうちに、
それがなじんでしまったようだ。

「兄さん、頼まれていたもの」
ソヨンが僕の手に渡してくれたものは、数枚のCDケース。
「ミニョンそれは」
「母さんのCDだよ。
最近、ゆっくり聴いていなかったから」
「兄さんのリクエストで、セレナーデばかりよ。
私は、ママの激しい曲、好きだけれど」
「病院にはふさわしくないよ。みんなびっくりする」
「いいわよ。元気になるじゃない」
ソヨンは屈託ない。
「それから、兄さん、これ」
もう1枚、薄いCDケースが渡される。

「レーベルがないわ。何か録音したものなの?」
「そうよ、ママ。
私も聴いた事がなかったわ。
ママのレコードデビューのアルバムだわ」

「私のデビューアルバム?」
「これだけはCD化されていないのね。
兄さんの荷物の中からレコードを探し出して、友人の音楽マニアに録音してもらったの。
でも、兄さんたら、聴きすぎて・・・」
「ソヨン」
「ママ、兄さんはこのレコード、擦り切れるくらい聴いている。
友人が困っていたわ。
たいがいのノイズは何とかなるけれど、音盤がここまで傷んでいては、どうしようもないって」

「ミニョン・・・。でも、これは、あなたが7歳の時のアルバムよ。
あなたが、私のアルバムを聴いていたなんて・・・」
「想像もしていなかった?
僕は、母さんを憎んでいたから、母さんのピアノを聴かないとでも思っていた?」
「だって、あなたは・・・」

「母さん、母さんが自分の練習の中でも、僕の音を聞き分けていたように、
僕は母さんのピアノを追いかけていた。
演奏活動が忙しくなって、
やっと母さんを許してくれたおじいちゃんたちのもとで暮らすようになってからも、
僕は、母さんのピアノを聞き続けていたよ。
だれも僕にピアノを教えてはくれなかったけれども、
僕は母さんのピアノを聴きながら、母さんの古いピアノを弾いていた。
そのときだけは、母さんと一緒にいられるような気がして。
あの事故がおきる17歳の日まで、僕はそうやって母さんを感じていたんだ」

「ミニョン・・・」
母の声が震える。
ソヨンがそっと部屋を出て行った気配がする。

「ミニョン、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
母が僕を抱きしめる。
「ミニョンになってからだけじゃない、
ずっと、ずっと、愛していたんだ、母さん・・・」
「ジュンサン」

母がセレナーデを奏でている時は、誰かを思い出しているとき。
涙を落としながら、鍵盤の上に幻を見て、
途切れることなく、流れるように。

でも、今なら、僕は言える。
母が奏でるセレナーデは、僕たち家族を思う愛の歌だと。

僕は、イ・ミニョンとして生きていく。
この家族のために。




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