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「10月の花」
22日 コスモス

時のはざまで~コスモス~【後編】

 ←時のはざまで~コスモス~【前編】 →ハーフムーン【第1章】
【後 編】

時々、夕食のテーブルで、伯母が少女に、「今日はどこに行っていたの?」と、尋ねる。
「コスモス畑」
「コスモス? ああ・・・、あなたのお母さんが好きだった花ね」
「はい」
「・・・いっぱい、思い出してあげなさい。あなたのお母さんとお父さんを・・・」

どこか申し訳ないような気がして少女が伯母を見返すと、彼女はいつも黙って微笑んでくれた。

「でも・・・、もうコスモスの季節も終わりね。
ああ・・・そういえば、あの人、お邸を離れるらしいわ。また旅に出るそうよ」
「あの人って?」
黙って話を聞いていた伯父が穏やかに尋ねる。
「あの町外れのお邸に住んでいた若い男性よ」
昨日、持ち主に告げたらしいわ。2,3日内にこの町を離れるって」

カタン・・・と、少女は箸を置いた。
伯父と伯母が、その音に少しだけ驚く。

「どうしたの?」
「あ・・・ううん」

真夜中、少女はそっと家を抜け出した。
暗い夜道をひたすらに走る。
つまずいて倒れそうになっても、少女は走り続けた。

夜のコスモス畑は、薄い月明かりに、さわわと音を立てている。
男の住む古いお邸は、そのコスモス畑の向こうにあった。
そこへ向かおうとして、少女はまるで申し合わせたようにいっせいになびいたコスモスの動きにぎょっと足を止める。

コスモスが何かをささやいている。
すべての顔を少女に向けて、何かを訴えようとしている。
コスモスに導かれるようにして、少女は恐る恐るコスモスの中に踏み入れた。
そして、思わず声を上げそうになった。

ただ風の音だけが波打つコスモス畑、その真ん中に何か真っ黒な塊がうごめいている。
風になびく長い髪の毛が、その塊があの男だと教えてくれる。

コスモスを踏みしだき、少女は男に駆け寄った。
男は、コスモスに埋もれるようにして倒れこんでいた。

「どうしたの!?」
抱き起こそうにも男の体ははるかに大きく、少女では頭を支えるだけで精一杯だった。
「ああ・・・、ごめん、ちょっと眩暈が・・・。
すまないけれど、ちょっと支えていてくれる?」

少女はうなずくことも忘れて、男の体を抱きかかえた。
二人の周りでさわさわと揺れるコスモスが、包み込むように寄り添い、男の体の上にしなだれかかるように頭を垂れる。

浅かった男の呼吸が落ち着くと、「ごめん、ありがとう」と、深い息を吐く。
そして、自分の体を包んでいたコスモスたちにいとおしげに触れると、ゆっくりと起き上がった。

「大丈夫ですか?」
「うん・・・すまなかった。ちょっと油断していて・・・。もう大丈夫」

月の薄明かりの中では男の顔色まではわからない。
少女はけれど、少しだけ安堵の息を吐いて、そして、自分がここへ来た理由を思い出した。

「どこかへ行っちゃうんですか?」

朧な月明かりに影を深めて、男は小さくうなずいた。

「なぜ? どうして行っちゃうの?」
「コスモスの季節が、終わる」

男は目の前に揺れるコスモスを一輪手折った。
そのささやかな力にさえ、花びらは自分を保つことができず、はらりと零れた。

少女は怯えたように辺りを見回した。
気がつかないうちに、秋は少しずつ冬に滑り落ちている。
コスモスたちの花がやせ細っている。

「もう行かなくては。薔薇の季節ももう終わる。
少しここに長居しすぎた。早く薔薇の命を抱きにいかなくては・・・」
「いや・・・。私を一人にしないで」

少女は男にすがりついた。

「お願いです。私を一人にしないで下さい」
「・・・一人・・・」
「私も連れて行ってください。もう、一人はいや」
「・・・一人じゃないだろう?君には、伯母さん夫婦がいる。
僕と一緒にこの町を出るということは、すべてを捨てるということなんだよ。
伯母さん夫婦も・・・自分自身も。二度と戻れない」
「かまいません!私、どうせ一人だもの。
今さら捨てるものなんか、ない!
私がいなくなったって、泣いてくれる人なんかいないもの!
連れて行ってください!」
「本当に? ・・・本当にいいの?」

少女は男にしがみついたまま幾度もうなずいた。
男が雲に隠れそうな月を見上げる。

「本当に? 何もかも捨ててもいいの?」
「はい」

少女が男を見上げた。
男が自分を見下ろす目が、かすかに潤んでいることに少女は気がついた。

「本当に?」
「・・・はい」

男の唇が落ちてくる。
少女の唇にそっと触れ、それからあごを掠め、首筋の一番柔らかい場所にくちづける。

「あ・・・」

いきなり自分を襲った激しい震えに、少女は吐息を漏らした。
ほんの少しだけ、男がそこを甘噛みする。

「本当に?」

首筋にくちづけされたまま、少女は震えながらうなずいた。

「明日、この町を出る。明日、午後、ここに来て。
荷物は何もいらない。君だけいれば」

男がそっと唇を離した。
まだ震え続ける少女を愛しげに抱くと、風の音よりもひそやかにささやいた。
「今日はもうお帰り。伯母さんたちにちゃんと別れを告げておいで。
明日午後、僕はここで待っている」

少女はうなずくと男から視線をはずさずに一歩、二歩と後ずさりしながらそばを離れた。

「明日、ここで?」
「明日、ここで」

少女は身を翻すと、足元に揺れるコスモスを振り返ることもなく走り出した。
灰色の雲が月を隠し、夜道は暗かったけれど、少女はちっとも怖くなかった。

もう、一人じゃない。
もう、何も怖くなんかない。


翌日、少女はそ知らぬ顔をして、普段と同じように登校した。
「おはよう!」
隣の少年が、いつものように一瞬、眩しいもののように少女を見て、それから気を取り直したように明るい声をかけてくる。
「ほら、国語の宿題さ・・・」
朝の光のように明るくうなずきながら、少女はただ午後が来るのを待っていた。


男は、これが見納めになる町をそぞろ歩いていた。
山間の素朴な町並み。

50年ほど前、逗留したことのある隣国へと向かう途中、ふと視界に入ってきたのが町外れにある見事なコスモス畑だった。

一番甘美な命の輝きを持っているのはやはり大輪の薔薇だった。
深紅の薔薇の命を抱けば、それだけで体中に力が満ちた。
けれど、なぜだか風にそよぐ繊細なコスモスの花に惹かれ、立ち止まってしまったのは、幸せだったのか、間違いだったのか。

少しだけ脆弱なコスモスの命は、頻繁に抱かなくてはたちまち体力が落ちる。
それでもここを離れられなかったのは、あのコスモスのように可憐な少女のせいだとは思いたくはなかったのに。

「一緒に連れて行ってください」と、すがられたとき、心が震えた。
もう忘れていたのに。

はるか昔。
時の流れさえ、もう男の存在など忘れ果てているというのに。

「私を一生愛してくれる? ずっとずっと命が続く限り、私を愛し続けてくれる?」
「約束する。あなたのそばにいる、命が続く限り」

そう誓い合って、首筋に彼女のくちづけを受けた。
すべて捨てて、家族も友人も、自分自身さえ捨てて、時の流れに身を投げたのに。

まだ男は生き続けている。
けれど、彼女の愛はもう男のそばにない。
あまりに悠かなときのうねりは、いつか「永遠」と言う言葉に縛られて、愛を見失わせた。
気がつけば、男は一人で生きている。

一人になってしまったのがいつなのか、もう振り返ることさえ忘れてしまった。

・・・けれど、もう一人ではない。

男は小さなフルーツショップに入った。
今夜、あの少女の首筋に誓約のくちづけを授けて新しい命を吹き込んでも、彼女が自分の状況を本当に理解し、馴れるまでは人間らしい食事を望むことだろう。
薔薇園にたどり着くまでの短い旅行の間、小さなりんごでもささやかな慰めになるに違いない。


「あら、奥さん、こんにちは。姪御さんはいかが?」

少女が好みそうなフルーツを選ぶ男の背後で、中年の主婦同士がにこやかに挨拶を交わしていた。

「ありがとう。
最初は泣いてばかりいたけれど、だんだんこちらの生活にも慣れてきたようで安心しているところよ」
「かわいらしいお嬢さんですものね」
「ええ。私たちは子どもに恵まれなかったけれど、弟があの子を残してくれた。
弟夫婦の分まで、大切にしたいと思っているの」
「幸せだわ、姪御さん。早く笑顔を見せてくれればいいわね」
「ええ。待っているんです、私も夫も」

男は手にしていたつやつやとしたりんごを、りんごの山の上に戻した。
ふと、唇に微笑が浮かぶ。

その視線の先、窓ガラス越しに学校から帰ってくる少女の姿が飛び込んできた。
傍らには、一度見かけたことのある少年が付き添っている。

少女は心なしか心が高揚しているのだろう。
ふっくらとした頬が薄紅色に染まり、その初々しさは輝くばかりだった。
寄り添う少年も、少女の美しさに気がついているに違いない。
少女から目を離すことができず、けれど、触れることもできないもどかしさに狂おしいほど瞳を輝かせている。

「あら、奥さん。姪御さんだわ。
まぁ、恥ずかしい。うちの息子がくっついている」
「とても明るくて、いい息子さんだわ」
「・・・初恋みたいなの。
いつもナイトよろしくくっついて、姪御さんに嫌われているんじゃないかと親としては心配で・・・」
「息子さんの明るさが、少しでもあの子が心を開いてくれるなら、いいのに・・・」

まだ親同士の会話は続きそうだった。
少女と少年は、親同士の勝手なおしゃべりなど知らないまま、男の目を通り過ぎていった。

ほろ苦い思いを抱いて、男は店を後にした。


1時間後、コスモス畑の真ん中で、男は風の声を聴いていた。

足元にはコスモスが、静かに散り始めている。
既に彼女たちの命を抱くことはできなかった。
急いでこの地を離れ、美しい生命力にあふれる薔薇に抱かれる必要があった。

小さな足音が駆けてくる。
「ごめんなさい。遅くなっちゃった!」

もうためらいもなく自分の胸に飛び込んでくる少女を、男は力強く抱き取った。
きらきらと大きな瞳を輝かせ、小さな唇から激しく息を吐きながら、少女は喜びに濡れた声を上げる。

「伯母さんのお手伝いしていたの。
最後だもの、おばさんのお手伝いくらい・・・」

後の言葉は、男の唇が受け止めた。
少女が驚くほど激しく、男は少女の唇を求めていた。

男の腕の中にとらわれて、けれど、少女はされるがまますべてを受け入れる。

コスモスの中で男に抱きしめられ、その唇が首筋に落ちてくる。
また首筋に男のくちづけを受け、少女は一つ吐息を漏らすと、男の腕の中で力を失った。

さらさらとコスモスがささやきかける。
頬を花びらになぜられて、少女は目を開いた。
既に空は深い藍色に包まれ始めていた。
西の空にはうっすらと、オレンジ色の細い雲が名残惜しげにかかっていた。

少女はゆっくりと起き上がった。
自分がなぜ一人ぼっちなのかが理解できない。
あの人と一緒に行くはずだったのに。

もう一人ぼっちではないはずだったのに。

そのとき、
「―――!」
と、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
それも、一人だけではない。

「―――!どこにいるの」
「―――!!」

伯母の泣き声が、伯父の太い声が、そして、あの少年の声が・・・。
彼らが自分を探しているのだと、少女はぼんやりと思う。
私を、探しているのだと。

「あ、おばさん、あそこ!!」
少年が自分を指差すのを、少女はまだぼんやりとした視線で捕らえた。

伯母が必死の形相で駆け寄ってくる。
コスモスが伯母の足元で揺れ、ちぎれる。

「心配したのよ、どうしたの、何があったの!」
伯母に抱き取られ、少女はふと目を閉じた。
「もう、本当に、心配したのよ!怪我はしていない?
何とか言いなさい。何か言ってちょうだい!」
自分をしっかりと抱く伯母の泣き声に叱られながら、少女はそのぬくもりに涙が零れてゆくのを止められなかった。
                               
10月22日の誕生花:コスモス
         花言葉は「乙女の真心」




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