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「二次創作(ホテリアー)」
ひだまりの君

ひだまりの君

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「ドンヒョクssi」

サファイヤヴィラに入ってきたジニョンは、彼の返事がないことにいぶかしい思いを抱いた。

「今日は1日、ヴィラで仕事をしているから、ランチの時間になったらおいで・・・」とのメッセージをうけとったのは、つい先ほど。
フロントの後輩が、「先輩、100万ウォンでこのカードを売っていただけません?」と、茶目っ気たっぷりに渡してくれたものだった。

「キーで勝手に入っておいで」と言う言葉に甘えて、そっとヴィラのドアを開いたのに、彼の気配がない。

不安を抱きながらリビングへのドアを開き、ジニョンは、ほっと息を吐いた。

彼はいた。
ソファの背もたれの上に、少しだけ傾いだ後頭部が見える。

「ドンヒョ・・・」と、ソファを回り込み、彼女は思わず手で口を塞いだ。

彼は眠っていた。
ぬるやかな陽だまりの中で。

大きなバルコニーから部屋の中へと日脚を伸ばした光は、ドンヒョクを包み込むように満ちていた。
光の一筋一筋がくっきりと陰影を描いて、彼の顔を、肩を、胸を、手を、足を、すべてを照らす。

ジニョンは彼を起こさないようにと、ソファの傍らにそっと座り込んだ。

「ドン・・・ヒョク?」

ささやくが、彼は目を覚ます気配はない。
手にはまだ書類を持ったままだった。
多分、彼は昨夜も徹夜だったのだろう。

アメリカから帰国したとたん仕事が殺到し、ドンヒョクは新しい家を探す時間もないままにサファイヤヴィラに滞在していた。
ましてや、今、パートナーであるレオ・パクは、アメリカでの残務処理に追われ帰国もままならない。

今、彼に残されているのは、このソウルホテルと彼自身だけ。
アメリカのウォール街での比類なき名声はこの韓国でも鳴り響き、ソウルホテルを乗っ取りから守った辣腕ぶりは知れ渡っているが、ここでマイナスからスタートするのは間違いない。
そのために、彼は今、寝る暇も惜しんで仕事に立ち向かっている。

結局、ジニョンはあまり彼と一緒に過ごす時間がなくて、ルール違反だと知りつつ、勤務中の休憩時間にこうやってサファイヤヴィラに走ってくることが多かった。
テジュンや他の人間が見ぬ振りをしてくれるのがありがたかった。

しかし、ドンヒョクは今、陽だまりの中で安らかな寝息をたてている。

ジニョンは彼の手から書類の束をそっと抜き取った。
その紙面に目を走らせても、彼女にはそこに書かれている言葉がちっとも理解できない。

ガラステーブルの上にそれを置くと、またジニョンは彼に向き直る。

シャギーの入った前髪の下で閉じられたまぶた。
ジニョンは彼のめがねに指を添えると、またそっとはずす。
長いまつげが、ほんの少しだけ震えている。
光にそよぐ風のようだ。

堂々とした高い鼻は、けれど品があるな・・・とジョニョンは思う。
綺麗なシンメトリーを司り、顔の真ん中で滑らかな稜線を描いている。

暖かな陽だまりに何か楽しい夢を見ているのか、ふっくらとした唇には、バラの花びらほどのささやかな微笑が浮かんでいる。

その唇が、「ジニョン」とささやくときの息の甘さが、いつも彼女をときめかせた。

1分でも早くそう呼んでほしくてここまで駆けてきたのに、でも、ドンヒョクは眠っている。

「ドンヒョク?」

ジニョンは、膝の上にある彼の手に触れてみた。

大きな手。

今、光に包まれた手は、ほんのりと暖かくて優しさに満ちている。

でも、この手はもっと熱くジニョンの体を蹂躙するのだ、いつも。
優しく、残酷に。

いくら許しを請うても、この手が、指が、容赦なくジニョンを泣かせた。
大きな手が彼女の小ぶりな胸を這えば、彼女は、背筋を這い上ってゆく悪寒にも似た快感に声を上げざるをえない。

「ねぇ、ドンヒョク」

少しだけ甘えるように、ジニョンは彼を呼んでみる。
蜜をたっぷりと両足にまぶしたミツバチの羽音のように。

無防備に寝顔を光にさらす男を、ジニョンは愛しいと思う。

夜の帳の中では、この男は猛々しく力強さに満ちている。
けれど、今、ジニョンの小さな手にも包み込めそうなほど、彼は幼くて脆い。
生まれたばかりの魂が心細げに揺れているように、ほんの少しだけ揺らぐまつげに、ジニョンはそっと唇を寄せた。

それから、ほっと息を吐く。

幸せに満ちた吐息。

少しずつ自分たちの周りに満ちてくる幸せが、永遠に続きますように。
この人を、私は幸せにできますように。

「ねぇ・・・、ドンヒョクssi。
私は・・・、これから一生、あなたのために笑って、あなたのために泣くわ。
私は、あなたのために生まれてきたって・・・信じていいわよね?」

この人のために笑い、この人のために悲しみ、この人のために生まれてきたのだという喜びに満たされて歩いてゆけますように。

どうぞ、二度とこの人が泣かないように、私に力を与えてください。

大きく深い愛の力を・・・。


ジニョンはドンヒョクの唇に自分の唇を寄せた。
それから、額に、閉じられたまぶたに、高い鼻梁に、少しだけ肉がそげた頬に、優雅な曲線を描く耳に・・・。

ほんの少しだけ、ドンヒョクの寝息が乱れる。

ジニョンは、また彼の唇に自分の唇を寄せた。
そのとたん、ジニョンの手の中にあった彼の手が、彼女を大きな胸に抱き寄せた。

「ドンヒョクssi!」

驚いて顔を離したジニョンの目の前で、彼はゆっくりと目を開いた。

「起きてたの?」
「うん」
「いつから?」

照れ隠しもあって、ちょっぴりだけ咎めるようなジニョンの言葉に、ドンヒョクはにやっと微笑んだ。
左端の口角を上げる、いつもの魅力たっぷりな微笑。

「・・・これから一生、あなたのために笑って、あなたのために・・」
「どんひょくっ!」

けれど、ジニョンの抗議の声など、ドンヒョクのくちづけの前では甘いミルクチョコレートよりも早くとろけてしまう。

「ジニョン、お昼休みは何時まで?」
「え?・・・、あと1時間15分」
「了解」

と、言う言葉が終わるよりも早く、ドンヒョクの指はジニョンのブラウスのリボンをするるっと解いた。

「ド、ドンヒョクssiっ」
慌ててリボンの尻尾を危うく捕まえたジニョンは、狼狽して彼の顔を見つめてしまった。
「な、何・・・」
「1時間15分もある。サンドイッチが冷蔵庫に入っているから、15分でランチもできる」
「・・・そんな」
「何?」
「私、勤務中・・・」
「休憩中・・・だよ、言葉は正しく」
「だって・・・」

ジニョンがじたばたと抗議している間にも、ドンヒョクの指はためらいなく動いていた。
ジニョンが気がついたとき、もう彼の指はフロントホックにかかっていた。
プチっとかわいい音がして、たちまち光の中に小さな白い胸が浮かび上がる。

「ドンヒョク!」

けれど、もう、彼は何を言っても返事はしなかった。
もちろん、ジニョンは声を上げる。
ただし、抗議の言葉ではなかったけれど・・・。


ぬくもりの中で、ジニョンは日向の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
光がチクチクとまぶたを刺して、その心地よさにジニョンはうっとりと目を開いた。
驚くほど目の前に、愛する男の微笑があった。

「ジニョン、よく眠っていた」
「・・・ええ・・・って、今何時?」

慌てて飛び起き、サイドテーブルのデジタル時計を見ると、とっくに休憩時間を終わっていた。

小さく悲鳴をあげて、ジニョンはベッドを飛び出そうとした。
しかし、その腕をドンヒョクが素早く掴む。

「大丈夫だよ、ジニョン」
「何が大丈夫なの!
私、なんてこと!」
パニックに陥りかけている恋人を、ドンヒョクは半分無理やり自分の腕の中に抱きこんだ。
「落ち着いて、ジニョン。
もうフロントの仲間はもちろん、心配だろうからテジュンの許可も得ている」
「えっ?」
「今日の午後はね、君にナイショで半休とってあったんだ、最初から」

ドンヒョクの言葉を理解できなくて、彼女はドンヒョクを仰ぎ見た。
「なぜ、そんなこと」
「一緒にいたかったから。
そのために今朝まで徹夜で仕事したんだ。
ここのところ一緒にいる時間が少なかった。
せっかくこんなに君のそばにいながら、いつもすれ違いで・・・。
だから・・・」

ドンヒョクはジニョンの胸に顔を寄せた。

「今日は一緒にいよう、ずっとここで。
夕食もルームサービスを予約してある」

「ドンヒョクssi」

もう・・・と心の中でつぶやきながら、ジニョンはドンヒョクの頭を抱いた。

「ドンヒョクssi」
「何?」

彼の息が胸にくすぐったい。

「あなたは陽だまりの中で眠っていたわ。とっても幸せそうに」
「・・・あたたかくて、心地よくて、つい・・・」

くすり・・・と、ジニョンは笑った。

「何?」
「あなたに、『つい』なんて言葉があるなんて知らなかったわ」
「・・・とても、気持ちよかったんだ。君みたいで・・・」

どこか拗ねるような言葉の響きに、ジニョンは口を閉じた。

多忙を極めていた彼が自分に甘えたがっているのだということにジニョンは気づく。

21年間住み慣れたアメリカを離れ、血の滲むような努力で築き上げてきた名声も信用もすべて投げ捨てて、知人やクライアントもすべて切り捨てて、この人は生まれた国に帰ってきた。

テジュンをはじめ、ここにも信頼できる友人はできたが、けれど、その基盤はまだ脆弱で心もとない。

父とも兄とも慕うレオもまだそばにはいない。


彼は一生、口に出しては言わないだろう。
けれど、こうやってぴたりと体を寄せていると、彼の疲労感や寂寥感が痛いほどに伝わってくる。

・・・この人と一緒に一生笑って生きていけますように。
何があっても、私はこの人を支え、包むことができますように。

ジニョンは心の中でつぶやく。

私だけのクールな甘えんぼさん・・・。

愛しているわ・・・。




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