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「「鳥」シリーズ」
愛をたどる日(ジンウ34歳)

愛をたどる日(ジンウ34歳)【後編】

 ←愛をたどる日(ジンウ34歳)【前編】 →駄々っ子ヨンス(ジンウ34歳)
【後 編】

自宅では、大きなおなかを抱えたトゥエンが、リビングに座り込んで洗濯物をたたんでいた。
リビングに入ってきた夫の顔を見上げ、「おかえりなさい」という前に一瞬眉をひそめた。
しかし、それはすぐに笑顔に変わる。

「あら、ジン。どうしたの?」
屈託ない妻の声を聞き、ジンウは知らず知らず肩に入っていた力が抜けたことを知った。
そのまま彼女の横に座り込み、トゥエンが手にしていた真っ白いタオルを手に取る。

彼女はリビングに入ってきたジンウの表情を見て、彼の心が波立っていることを感じ取っていた。

年下の愛しい夫。
いつもは飄々とした表情で自分を包み込んでくれるのに、今日は少しだけ違うみたい。
彼が自分に甘えたいのなら、どこまでも甘えさせてあげる。

「ジン?」
黙って座り込んでしまった夫に、トゥエンはさりげなく呼びかけた。
ただし、タオルをたたむ手は止めない。

「今日の撮影、どうだったの?」
「トゥエン」
「なぁに?」
「・・・先生に息子さんがいた」

トゥエンの手が止まる。
思わず傍らの夫を射るようにみつめてしまう。

「先生・・・って、ソ・クンホ先生?」
「うん」
「息子・・・って、子ども・・・よね?」
「うん」

大きく目を見開いて間抜けな質問を繰り返す妻の混乱振りが分かり、彼は微笑んだ。

「ちょっと!ジン!うそでしょ?だって、子どもって、そんな、先生に?」
「先生の息子さんだ。そっくりだよ、先生に。疑いようがない。
若いときの先生をよく知っているチェ・ソンスssiが絶句したほどだ」

自分でも落ち着いている声が出ることに、ジンウは感謝する。
しかし、今度はトゥエンが黙ってしまう番だった。
夫の顔を、まず右目をみつめ、それから左目をみつめ、彼の中の葛藤を探っている。

「トゥエン?」
「・・・ジン?」
「何? 」
「大丈夫?」

たった3文字の言葉で夫を包み込んでしまう妻。

トゥエン。
そこには確かに、確かな愛がある。

「ああ、大丈夫。今、息子さんは日本に住んでいるそうだ。
一昨日から出張でこっちへきていて俺に連絡くれたんだ。
彼と歩いていて、偶然、ソンスssiとも出会ってしまった。
彼は、どうしてももう一度会いたいと無理な申し出をして、今夜、会う約束を取り付けたんだけれど、両方から、一緒にいて欲しいといわれた」

トゥエンは夫の顔から視線をそらさなかった。
タオルをおろすと、その手で夫の額にかかる前髪を優しげにかき上げる。

「ジン。会ってどうするの?」
「・・・わからない。
でも、息子さんはイ・サンミンって言うんだけれど、彼はソンスssiに先生の話を聞かせて欲しいらしい。
もっとも、ソンスssiのほうは、サンミンssiにもう一度会いたいといいながら、とても苦しそうだった・・・。
多分、とても傷ついている」
「傷ついている?」
「サンミンssiは24歳だそうだ。
その頃、多分、彼は先生を追いかけていた・・・んだと思う」

ああ・・・、とトゥエンはため息をついた。

ソ・クンホは少年しか愛せなかった。
それも、ジンウと出会うまでは、その場限りのぬくもりしか求めていなかった。

あの怜悧な顔で、クンホはソンスを振り払っていたに違いない。
何も言葉にしなくてもあの美しすぎる視線だけで、ソンスは傷ついていたことだろう。

「ジン?」

トゥエンは傍らの夫を抱き寄せた。
聞きたいことがたくさんありすぎて、でも、今はいい。

「ジン」
「トゥエン」
「あまり遅くならないでね。
あなたの赤ちゃんも、あなたの帰りを待っているのよ」
「はい」

自分に体をぴたりと寄せてくる妻。
そのこっけいなほどに丸いおなかの中には、自分と愛する妻の命を受け継ぐ子どもがいる。

愛しい。
理屈も何も必要ない。
ただ愛しくて、守りたいと思う純粋な思い。

ふいにジンウはまぶたが熱くなるのを感じた。

先生は、こうやってサンミンを抱いたことはなかったのだ。

先生。
あなたが残してくれたもの。
高校時代のあなた。
あなたの初恋。
テ・ミンジュssiの写真。
そして、あなたの息子。
あなたの愛。

その一つ一つを俺はたどってゆく。
ばらばらだったピースが、一つ一つ重なり合い、結び合い、俺が知らなかったあなたをかたちづくっていく。

先生。
今なら、あなたに言えるのに。

そのすべてが愛しいと。

「ジン?」
「トゥエン。ねぇ、早く生まれないかな、俺たちの子ども」
「せっかちなパパね。心配しなくても、もうすぐ生まれるわ。
だから、今夜は、先生の息子さんといっぱいお話していらっしゃい」
「さっきはあまり遅くならないようにって、言ったくせに」
「・・・いいわ、今夜は許してあげる。
先生の分も、息子さんの想いを受け取っていらっしゃい。
ソンスssiを・・・、彼も守ってあげて」


午後8時過ぎ、緊張を隠せないチェ・ソンスと連れ立って、ジンウはソウルホテルの廊下を歩いていた。
落ち着いて話すには自分の部屋のほうがいいと、サンミンが希望したのだった。

彼は一人で部屋にいた。
寛いだ表情の彼は、3人の中では一番年下なのに一番落ち着いていた。

「クンホと君のお母さんの関係を詳しく話してくれ!」
挨拶もそこそこに、ソファに腰を下ろすのももどかしく、ソンスは口を開いた。

サンミンはそんなソンスの態度に驚く風もなく彼の真正面に座る。
ジンウは、先にソンスがホテル側に依頼してあったルームサービスの水割りセットのトレイを引き寄せた。

「クンホssi、・・・父は、母の大学の1年後輩です。
父は・・・、高校の先輩の形見のカメラを持っていたそうです。
でも、写真の撮り方は知らなかった。
写真サークルに誘って、撮り方を教えたのが母でした」

高校の先輩の形見。

トングで氷を挟んでいたジンウの手が止まる。

テ・ミンジュのカメラ。
今、自分の元にあるOM-1。

「母は、父が好きだったそうです、ずっと。けれど、父は兵役に行ってしまった。
母は、卒業後も大学に残って父を待ったそうです。
父が兵役から戻ってきたときのことを、母は思い出したくないといいました。
ぼろぼろに傷ついて、見る影もなかったと。
そんな父を自分の下宿に連れて帰って、母は3日間、一緒に過ごしたそうです。
父は、そんな母の気持ちを受け入れてくれた」

淡々と語るサンミンを、ソンスは食い入るようにみつめている。
アームに載せられたこぶしが、時々ぐっと握られ、そして、それを恥じるようにふっと力が抜ける。

ジンウは黙ってサンミンの言葉を聞く。
ややうつむき加減に語る彼の横顔は、驚くほどクンホに生き写しだった。
これほど実の父親に似てしまっては、今まで生きてくるのは苦しかっただろうと、サンミンの切なさにジンウは思いを寄せる。

「嘘だ」

苦しげにソンスがうめく。

サンミンは彼の声に腰を上げると、ベッドの上においてあった小ぶりなトラベルバッグからシステム手帳を取り出した。
その中に挟んであった写真を手に戻ってくると、ソンスの前にそれを差し出した。

「そのときに父が撮った母です」

黒目がちな大きな目を涙で潤ませて、こちらを真っ直ぐにみつめている若い女性。
一生懸命に微笑もうとしているのに、でも、涙がそれを裏切っている。
うっすらと開かれた唇が、「クンホ」と切なげに呼んでいるのが、ジンウには聴こえる。

ファインダーを間に挟んで、みつめあう二人。
そこにあるものは愛以外、何ものでもない。

「嘘だ」

ソンスがその写真を凝視しながら、またうめく。

「父は大学に復学届けを出し、いったん実家へ帰ったそうです。
母も間もなく郷里へ帰って教師になり、二人は離れ離れになった。
けれど、二人の絆は切れなかった。
翌年の夏休み、母は研修のためにソウルへ出てきて父と一緒に過ごし、僕を身ごもりました。
・・・でも、結婚はできなかった」

「なぜ?」
ジンウの問いかけに、サンミンは哀しげに首をふった。

「母は、何も言いません。ただ、結婚はできなかったと」

「クンホが女性と結婚などするものか」
「ソンスssi」
吐き捨てるように言うソンスをジンウは咎めたが、サンミンは微笑んだだけだった。

「サンジュ父が・・・、僕の父です。その父が言いました。
クンホssiは、母を追いかけて母の郷里まで来たそうです。
でも、母は、話をすることさえ拒否したと。
・・・そのあとで、号泣していたそうですが・・・。
サンジュ父は、冷たく拒否されて、呆然と母をみつめていたクンホssiを覚えているそうです。
夏の薄闇の中に立つその美しさに、男でありながら思わず見とれそうになったと、父は言いました」

ジンウはその言葉に何のためらいもなくうなずけた。

今、目の前にいる若い男。
ソ・クンホにそっくりな美しい息子。

「父は・・・、母のおなかに僕がいたことを知りながら、母にプロポーズしたそうです。
もちろん、母は断ったけれど、父は押し切ったそうです。
どうしても結婚したくて最後には脅迫までしたと、父はよく冗談で言います」

その父に大らかに愛されたのだと、ジンウはサンミンの笑顔の中に会ったことのない男を見る。

いや・・・、会ったことはある。

あの病院の暗がりの中。
いかつい顔に、切なさと苦しさを同居させ、それでも泣き崩れる女性を優しく抱き寄せた男。
昔の恋人の病床を見舞い、迫りくる死の影を目の当たりにして嗚咽する妻を抱きしめていた男。

「サンミン。君は・・・ソ・クンホの息子だ。間違いない」

ジンウは確信する。

「ジンウ!」
「ソンスssi。あなただって良く分かっているはずだ。
だからこそ、そうやってすべてを否定する。
その気持ちは分からないでもないが、先生が、とても大切なものを俺たちに残してくれたことを認めたほうが・・・、きっと、楽になれる」

ソンスは苦しげに視線をそらした。

25年前。
兵役から帰ってきても連絡さえしてくれなかった男。

その一方で女性を愛していたなどと、誰が認められるものか。

「ソンスssi」

今度はサンミンがソンスを呼ぶ。
彼はサンミンを見ない。

「父は、ソ・クンホはどんな人間でしたか?10代の父をあなたはご存知なんでしょう?
教えていただけますか?」
「何のために?クンホは死んだ。君には立派なご両親がいる。
今さら、死んでしまった男のことなど知って、どうする?」

拒絶の言葉には、切なさがにじみ出る。

「・・・僕は今の父を尊敬しています。
けれど、その父が、クンホ父の写真を見て言ったんです。
『こんなに素晴らしい写真を撮る人がお前の本当の父親なんだ。誇りに思って生きていけばいい』と。
でも、僕はクンホ父と二度しか会えませんでした」
「だから?」
「・・・知りたいんです」

「クンホは」

ソンスは、ジンウをちらりと見る。

「冷たくて、傲慢で、自分の才能を鼻にかけたいやな男だった」

言い切って、倣岸な目をしてクンホの息子をにらむ。
サンミンは、なんと返事をしていいのか戸惑ったようだった。

10代の最後の1年あまり。
戯れるように一緒にいた。
決して自分の心を覗かせず、いつも、どこか冷めていた男。
けれど、ふとその鎧に亀裂が走る瞬間に、ゆらりと立ち上った孤独な魂。
彼の寂しさの理由など分からなかったが、そのあまりの痛々しさに差し伸べた手を幾度も邪険に払われながら、それでも離れられなかった。
そんな日に限って、自分が振り払ったばかりの腕を求め、心尖らせるほどの激しい情熱を示した。

忘れられるものか。
クンホを愛してしまったら、ほかの男など愛せるものか。

激しい目をして自分をにらみつけるソンスを、戸惑いながらもサンミンはみつめ返している。
ソンスがサンミンへと傾けている迸るほどの感情をジンウは見逃さなかった。

仕事柄、彼とは顔を合わす機会も多かった。
幾度となく彼からは皮肉を言われ、まだ10代だった頃にはクンホへのあてつけのために危うくキスされそうになったこともある。

しかし、今、先生が逝ってしまった年齢を迎えてもなお、彼はクンホを求めている。
クンホはジンウを独立させたころから少年を求めなくなり、それはそれで一時期、業界でも格好の噂のタネになっていた。
しかし、このソンスは、相変わらず浮名を流し続けている。

モデルとしても経営者としても華々しい成功を収めたにもかかわらず、渇望するように次々と恋の相手を変える男は、ジンウと出会う前のクンホと同じだった。
求めても求めきれず、諦めることもできず、ただ闇の中をさまよい続けている。

ソンスに対してどう対応していいのか迷っているサンミンに、ジンウはあらためて声をかけた。

「サンミンssi。先生は、フォトグラファーとして一流だった。
先生のアシスタントをしたい、ただそれだけを目指す人間さえ多かった」
「優しい愛人だった、と言ってやれ。ジンウ」

複雑に絡み合う感情を御することもできず、どうしても皮肉を言わずにいられないソンスの言葉は聞かぬ振りをして、ジンウはサンミンをみつめる。

「君のお父さんは、誰よりも優しい人だった。
俺は、一度だけ聞いたことがあるんだ、どうしていつもそんなに優しい目をしているのかと」

はん、と、傍らでソンスが肩をすくめた。

「父は、なんと答えたのですか?」
「・・・自分は、二人の大切な人に拒まれたのだと。
一人は、お父さん、つまり君のおじいさんに当たる人だね。
先生のお父さんは、先生が実家を継ぐことを拒否してフォトグラファーになったことを許そうとはなさらなかった。
亡くなる直前に、やっと和解されたんだ。そして、もう一人の名前は・・・」

ジンウは言葉を切ると、自分を真っ直ぐに見ているクンホの息子を見返した。

「先生は、自分を拒絶したもう一人の名前は言葉を濁して言わなかった。
でも、君の話を聞いていて、今、分かった。
先生を拒絶したのは、君のお母さんだ、多分。
何か事情があって、君のお母さんは先生との結婚を望まなかった。
・・・先生は、君の存在さえ知らなかった。
お母さんは、先生に何も告げずに先生との絆を切ろうとした。
先生には、その理由が分からなかったのだろう。
ただ、拒絶されたと思いこんでしまった。それは・・・」

ジンウは唇をかむ。

その理由は想像がつく。
当然ではないか。
忌避されるべきる性癖は、たとえ過去の話でも想いを踏みにじるには十分な重みを持っている。

しかし、そんな女性を先生が愛するだろうか?
そして、そんな女性が先生を愛し、子どもまで身ごもるだろうか?
ましてや、誇りを持つようにと、事実をありのままに告げるだろうか?

結局・・・、と、ジンウは思う。

真実など、俺たちに分かるはずなどない。
真実は、先生とこの息子とその母親の間にしか存在しない。
彼が先生の息子であるという事実と、そこにある真実。

「愛」なのだと彼が信じ、彼の両親がそういう以上、そこにあるのは「愛」という真実でしかない。

「先生は、だから、自分は誰も拒みたくないと言った」
「俺は拒まれた」
「ソンスssi」
「俺は拒まれたんだ」
「・・・先生はあなたを拒みはしなかった。拒まざるを得なかっただけだ。
誰よりもそれを知っているのはあなたじゃないか」
言い募るソンスの言葉を封じ、ジンウは言葉を繋ぐ。

「サンミンssi。君のお父さんは、君にふさわしい人だった。
それは、誰よりも先生に近かった・・・この人と、俺が良く知っている。
俺は、先生の・・・先生のそばにいられて幸せだった」

ふいにソンスが立ち上がり、窓辺に立った。
カーテンを開け放したそこには、見事な夜景が広がっている。

「ソンスssi。俺にも話してくれませんか、俺が出会う前の先生の話を」

その背中に向けてジンウは話しかけた。
頑なな背中は黙ったまま何も言わない。

「サンミンssiは明日には日本へ帰ってしまう。
あなたがクンホ先生の息子さんと会えるのも、今夜限りなのかもしれない」

ぴくりとその肩が揺れて、しかし、やはり振り返らない。
ジンウはそっと息を吐くと、またサンミンに向かい合った。
そして、上着のポケットから古い万年筆を取り出した。

「これを・・・」
「え?」
「先生が亡くなる前に俺にくれたものです。
大学生のときに大きな賞を受賞したお祝いに、誰かがプレゼントしてくれたと言っていた。
大事なサインの時はいつもそれを取り出して・・・。
ペン先を変えたり、専門の職人さんに修理を何度も依頼して、ずっと使い続けていた。
俺は・・・先生の形見のカメラを持っている。
だから、この万年筆は、君に使って欲しい」

「待て!」
空気を奮わせるほど大きな足音を立てて、ソンスが歩み寄っていた。
目じりが切れるほどに大きく目を見開き、すさまじい形相でジンウの傍らに立っていた。

「それを見せろ!」

ソンスのただならぬ様子にジンウが黒い万年筆を差し出すと、彼はひったくるようにそのペンを手にした。

「名前が・・・名前が彫ってある」
彼には珍しく声が上ずっている。
「ええ。ソ・クンホと。
下さった方が名前まで入れてくれたのだと、先生が言っていました。
もらったとき、とても嬉しかったと、先生が懐かしそうに何度か語ってくれました。
万年筆自体、職人さんの手作りで同じものは他にないそうです。
相手も大学生だったから無理したんじゃないかって、先生は笑っていました。
でも、世界にたった一つ、彼が選んでくれたものだと、先生は大切に・・・」

あ・・・、とジンウは言葉を切った。

「ソンスssi・・・」

ソンスはその万年筆を握り締めたまま、わななく唇を手で覆い、声を漏らすまいと耐えている。

「ソンスssi。先生は、本当にその万年筆を大切にしていました。
30年近く、いつもその万年筆は先生のポケットの中にあったんです」

サンミンが立ち上がり、ソンスの前に立つ。

「ソンスssi 」

とめどなくあふれる涙をぬぐう術さえ忘れ、ソンスは愛する男の忘れ形見の前で、ただ立ちすくんでいた。


その夜、ジンウは帰ってこなかった。
リビングの床にじかに座り込み、トゥエンは丸いおなかにささやく。

「ねぇ、赤ちゃん。パパはね、今、浮気中。
とってもとっても愛した人の息子さんと、愛を過去へとたどる旅に出ているの。
信じられる?
ここで、あなたと私が待っているというのにね?
・・・でも、今夜だけは許してあげようね。
パパは、その人のことを本当に愛していたの。
そして、その人もパパのことを・・・。
赤ちゃん・・・、誰かを愛するということは、愛し続けるということは、とてもとても簡単なことだけれど、でも、同時にとても難しいことよ。
それを、パパもその人も知っていた。
・・・だから、今夜だけは・・・ね?」

愛しげに撫ぜるその手のひらに、ぴくりとおなかが動く感触が伝わってくる。

「いい子ね、ママの言うことが分かったのね?」

もう一度、ぴくりと返事をするおなかを撫ぜながら、トゥエンはバルコニーの向こうに広がる闇に目を凝らした。




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