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「7月の花」
28・29日 オシロイバナ・サボテン

内気な二人~オシロイバナ・サボテン~

 ←大学院と浴衣 →揺籃歌【27】
髪の毛まで焦げそうな夏の光が、頭の上から降り注いでいる。
前期試験中なので、キャンパスには学生の姿はまばらにしかない。
男はキャップやキャスケットでなんとか日射しを遮っている。
中にはタオルをすっぽりとかぶっている強者もいるほどだ。
一方、女の子達は日傘のオンパレード。
やはり遮光性の黒が多いが、あえて真っ白や雨傘と見まごうばかりの鮮やかな花柄を持っている人間も多い。

残念ながら帽子も日傘も持っていない是枝明憲は、あまたのてっぺんから流れ落ちてくる汗をすっかり湿ったタオルで拭きつつ、日陰を探しながら大学の門へと歩いていた。
前期テストも中盤、明憲は全部で10科目の試験科目を抱えているが、今日で既に7つが終了。
あとは週明けに3つやっつければ、憂い無く夏休みに突入することができる。
2カ月に及ぶ休みは、バイトと就活を控えてのセミナー詣でに明け暮れることになる。
だから、テスト期間中とはいえ、心のどこかではしばしの休暇・・・てな気分でいることは否めない。

あと数mで大学の正門、というところで、明憲の足は、自分の意志とは関係なく止まってしまった。
本能的、といってもいい。

なぜ自分の足が止まってしまったのかを脳が検証する前に、「お・・・」と、声が喉の奥から転げでたことを明憲は知った。

目の前、正門を出ようとしている人影。
その横顔には見覚えがあった。
見間違えるはずがない。
なぜなら彼女は・・・。

いや、先に目に付いたのは、ブロンド(!)のボブヘアと、色こそモノトーンで統一されてはいるが、黒地とグラフィックな幾何学模様柄が大胆な切り替えでモザイクのようにパッチワークされたチュニック丈のトップス(それも裾丈は左右でアンシンメトリーだ)と、同じ柄のスリムなシルエットのサルエルパンツ。
たまたま正門を出るタイミングでサングラスを外したからその横顔に気づいたのだが、顔の半分以上を隠すようなでかいサングラスをしたままではわからなかったかもしれない。

あまりに意外な場所で出会ってしまったことで立ちすくむ明憲の気配を感じ取ったのか、彼女が胡散臭げに振り返り、そしてすぐに前を向く。

けれど、踏み出そうとしていた足が、パタリと止まったことを明憲は見てしまった。

まるで悪事を見つかった子どものように、しばらく肩を上げたままで固まっていたが、やがて恐る恐る振り返る。

明憲も、その場に固まったまま動けずにいた。

半身だけ振り返った彼女は、慌ててサングラスをかけると、斜め後ろ数mのところに立っている明憲を凝視している。
もっとも、真っ黒なレンズの大きなサングラスが、小さな顔の半分以上を隠しているので、視線どころか顔の表情さえ定かではないが。

「これ・・・えだ・・・く?」

ファッションに合わせてダークレッドに彩られた形の良い唇が、言葉の途中で慌てたように途切れる。
明憲も、観念したように頷きながら彼女に歩み寄った。

「久しぶり。奈生、迫井奈生・・・だよな?」

照れ隠しのような言葉に、それでもまだ疑っているかのように、彼女がためらいつつ頷く。

「なんでこんなとこにいるんだよ」
「・・・ご挨拶ね。私は・・・ここの学生よ」
不機嫌なのか、低くて小さな声がぶっきらぼうに答える。
視線も微妙にそらされているようだ。
「あ?・・・そうだったか。学部は?こっちのキャンパスなら文系だな」
「芸術学部」

なるほど、だからこのファッションか。
と、明憲は思いつつ、もっともコイツは高校時代からハチャメチャなファッションだったなと改めて思い出す。
アバンギャルドなファッションは、奈生の代名詞だった、そういえば。

「今日は?試験なのか?」
また奈生は神妙に頷いた。
「それより、そっちこそ、なんでここにいるの?是枝が行ったのは・・・」
「編入してきた」
「編入?冗談でしょ?ランクダウンじゃないの」
「知るかよ、そんなこと。ゼミの教授が派閥争いの末、学長選挙に敗れてさ。
派閥争いに負けた教授なんて惨めなもんでさ、早速追い出しかかっちゃって、なんとか母校が拾ってくれたから母校に戻るって言うから、俺も移ってきた。
大体、あの大学行ったんだって、その教授のゼミに入りたいがためだったんだから」

まるで言い訳するように早口になるのは、気まずさをごまかすためだ。
けれど、心が騒ぐのも本音。
高校を卒業して2年あまり。
忘れようにも忘れられなかった横顔を思いもよらないところで見かけ、心のどこかが喜びに震えているのも確かだ。

奈生は、明憲の本音を探るようにしてサングラス越しに上目遣いで見ている(多分。そんな気配がする)。

「その・・・、迫井」
「何?」
「久しぶりに会ったんだ。ちゃ~でも飲まないか?」

できるだけさりげなく、それでも冗談めいた口調になるのは、「断りたかったら断ってもいいよ」と、聞こえて欲しいと思ったから。
彼女は小さな唇を引き結び、また探るように見上げてくる。

「時間、ないのか?駅前のスタバでいいけど」

これじゃ、断ってもいいなんて、どのツラ下げて言うんだよと思いつつ、なんとかひきつり笑いをしながら見下ろすと、彼女も不承不承うなずいた。

いつもなら学生でいっぱいの駅前のコーヒーチェーン店だが、今日はさすがにいくつかテーブルが空いている。
図書館がわりにノートを開いて試験勉強をしている奴もいるが、二人がけのテーブルは小さくて、ノートとテキストを開くのに難儀しているようだ。

二人はそれぞれのカップを持って、店のほぼ中央にある二人席に陣取った。

小さなテーブルをはさんで向かい合うと、思っていたよりも彼女が近くに感じられて、思わず椅子を引いて距離を作った。
ほとんど毎日のように使っている店なのに、こんなことを感じたのは初めてのことだった。
向かい側に座っている奈生もどこか居心地が悪そうで、アイアンチェアの上で何度もお尻の位置を変えている。

「でも、まさか、大学が同じだとは思わなかった」
ほかの話題がみつからなくて、無難な話から切り出してみる。

聞きたいことは唯一つ・・・、なんだけれど。

サングラスを外そうともしないで、奈生は明憲の顔を凝視している(多分)。
高校時代の彼女は、もっとストレートであけっぴろげだった。
二人の会話も男同士のような気さくな言葉のやり取りたったのだと思い出しながら、やはり2年ぶりの再会ではこんなもんかと思い直す。

何しろ、最後に別れた時の経緯(いきさつ)が経緯(いきさつ)だし。

「・・・編入だなんて、是枝らしいといえばらしいけれど。学部は、どこ?」
「経営だよ。経営情報科。システムからやってる」
「ふう~ん」

弾まない会話にうんざりしながらも、「まるで理解できないんだろうな、やっぱり。何しろ、彼女は芸術学部だし」なんて、わざとらしく考えてみる。
その一方、明憲はもう一度、正面に座っている奈生の姿を確認するように眺めた。

「それ、ウィッグ?」
ストローをくわえながら彼女が頷く。
「何専攻しているの?」
「・・・コンピューター・グラフィックで洋服のデザインをしているの」
「って、ひょっとして、今着ているのも自作?」

また彼女が頷く。
明憲もつられるように頷いた。
「奈生らしいよ。私服OKの高校だからとはいえ、お前さんのファッション、いつも奇抜すぎたもんな。
毎日、奈緒が何を着てくるのか、青高ブックメーカーが毎日みんなを煽ってたくらいだから」

奈生がそっぽを向いて肩をすくめた。
その横顔を見て、また胸がキュッとなる。

「この夏の同窓会、出るのか?」
「出ない・・・と思う。バイトが忙しいし」
「バイト、何やってるんだ?」
「・・・カフェレストランのフロア」
「就活は?」
「しない」
「余裕だな、それ。でも、どうするんだよ、卒業後。
デザインをやってるなら、アパレルメーカーとか就職するんじゃないの、普通?」
「モデル」
「モデル?なんだ、それ」
「自分でデザインした洋服を着て、東京コレクションとか、神戸コレのキックオフショーのランウェイを歩くの」
「売り込み?」
「そうよ。いつも自分がデザインした服を着て出歩いているのもその一環」
「じゃぁ、アネキも?」

ふいに出た名前に、大きなサングラスの下の唇が、皮肉に上がった。

「・・・美生(みお)は無理。体型もほとんど同じなのに、あの子はダメ」

どこかなげやりな言葉に、けれど、明憲は、今度こそ深く頷いた。

「だろうな。変な双子だったよな、高校時代から」
「双子といっても別人格だもの。それに私たち、誕生日が・・・」
「そういや、美生は7月28日で、奈生は翌日だったっけ。
もうすぐだな。
美生が夜中の11時55分生まれで、お前さんが0時15分までお母さんのお腹の中で粘っちまったって。
だから、同じ獅子座でも、なんだっけ、え~っと・・・、そうだ、誕生日の花。
誕生日花も違うんだって、お前、文句言っていたよな?
なんだったっけ?」

話を振られて奈生の唇が一瞬、とがる。
明憲自身も驚くような記憶の良さに呆れたのか、けれど、気を取り直したように口を開いた。

「28日はオシロイバナ。29日はサボテン」
「そうそう、そうだ。オシロイバナは可愛いのに、なんでアタシはトゲトゲのサボテンなのよって、むくれていたっけ。
でも、そのくらいのギャップがあったほうが、お前たちらしい」
「もともとうちの両親も双子だからって見世物になる必要はないとか言って、私たちが望まない限り、ペアルックはさせなかったもの。
一卵性双生児といっても、名前も違うし、人格も別だって、小さい時から言い聞かされて育ったのよ、私たち」
「だよな~。普通、双子は同じクラスにしないのに、お前さんたちは顔は似ているとはいえ、まるで雰囲気が違ったから、3年の時は平気で同じクラスにしてたもんな、学年主任。
それでも、一度も間違えられなかっただろ」
「よく覚えているのね、是枝。それほど、私、印象深かった?」
「当然だろ。お前、毎日、変わったファッションで堂々と登校してセンセーたちをケムに巻いていたじゃないか。
その上、男子押しのけて生徒会会長に立候補して当選しちまうし、文化祭では自分で脚本・演出・主役の創作劇で優秀賞をとっちゃうし。
迫井奈生を知らなければモグリだって言われてたんだぞ、うちの高校」
「失礼ね」

ぎこちなかった会話が流れ出す。

むくれた奈央の顔を見ながら、そうそう、こんな調子だったなと明憲は思い出す。
男女を超えた仲のいいクラスメイトだったんだ、2年前は。

「ほんとだよ。奈生にはかなわないと男ども、みんな思っていたんだから。
けれど、アネキの方は・・・」
「何?」
「・・・彼女は、なんていうか・・・」

なんと言えばいいのか、いまだにわからない。
言葉につまった明憲を睨んだあと(多分)、奈生は思い切ったようにサングラスを外した。
ブロンドのボブヘアにくるりと囲まれた卵型の顔が真正面に現れ、明憲は、思わず目を瞬いた。

「はっきり言えばいいじゃない。美生は根暗なやつだったって」
「根暗じゃないだろ。ああいうのは内気って言うんだ」
慌てて訂正した明憲を、奈生は目を見開いて見上げた。
隈取に近いアイメークが強調する目は、思いのほかクルンとして、奇抜で人工的なファッションやメイクの中で、唯一つピュアな印象があった。
多分、そのギャップがこのファッションをより効果的にアピールできるのだろうと明憲は思う。
もっとも、大きなサングラスをかけていては効果も半減だけれど。

「内気?」
猜疑心に満ちた目で、奈生が尋ねる。
明憲は、にっと、唇の左端を魅力的に上げると、頷いた。

「そうだよ、内気。別に根暗じゃなかっただろ?
授業中だって、先生に指されたら、ちゃんと明確に返答していたし、でも、その答えを褒められたりしたら、急にうつむいて真っ赤になっていただけじゃないか。
あまり積極的に自分の意見を言う方ではなかったけれど、自分の役割はきっちりと果たしていたし、性格的にも裏方の方が向いていただけだろ?
奈生の派手な言動に眉をしかめるセンセーには、まるで自分のことみたいに頭を下げてさ、でも、奈生のこと責めたりしなかっただろ?
奈生がいつも活発であけっぴろげで声もでかいから、ギャップが大きすぎて、アネキのことを根暗だと思っている奴も多かったけれど、あれはね、慎ましやかだというべきなの」

また隈取された目が大きくなる。
まるで歌舞伎の見得みたいだと、微笑ましく思いながら見返した視線がちょっと強かったのか、奈生は顔を背け、咳払いをするように息を吐いた。

「あの、・・・、あのさ、奈生」
「・・・なによ」
美生を褒めたことで機嫌を損ねたのか、視線をそらしたまま返事が低い。

「その、アネキは元気?」
「なんで?」

声がとがる。

「なんでって・・・、知りたいから」

思わず本音がこぼれる。
奈生の肩が、びくりと揺れる。

「なんで、知りたいの」
「え、と。その、あれだよ、奈生が相変わらずぶっ飛んでて元気だってことがわかったから、それなら、双子のアネキの方はどうかなって・・・」
後ろめたさも手伝って、つい言葉尻が消えてしまう。
けれど、奈生はそこに噛み付いてきた。

「なんで、気になるの?
高校時代だって、是枝く・・・是枝は、アタシのことは奈生、奈生って呼び捨てにしてたくせに、美生・・・のことはアネキって言っていたでしょ。
一度も名前を呼ばなかった。
何か用があるときは、『迫井!』って苗字で呼んでいた。
・・・それに、是枝と美生が単なるお喋りしてるとこなんて、見たことないよ」
「そ、そりゃ、アネキ・・・、み、美生には喋りかけることなんかできないよ」
「なぜ?」

畳み掛けられて、明憲は、思わず体を引いた。
奈生にはいつもやり込められてタジタジとなっていたが、今のように責められたことはない。
大きな目でじっとみつめられて、かぁっと頬が熱くなるのが分かり、思わずうつむく。

「帰るわ」

いきなり奈生が席を立った。
小さなテーブルに膝が当たり、空っぽになったカップが揺れる。
あっけにとられた明憲の前で、奈生は大きなエディターズバッグを担ぎ上げるようにして肩にかけると、さっさとテーブルを離れようとした。

「奈生!」
思わずかけた声に、奈生の足が止まる。
見上げると、唇を噛み締めた顔にぶつかった。
細い眉が、泣くのを我慢しているみたいに眉間に寄っている。

「・・・奈生、ごめん」
意表をつかれたのか、今度は怪訝な表情が浮かんだ。
「ホントは、一番最初に言うべきだったんだ。
あの日、卒業式のあと、・・・その、せっかく奈生が素直な気持ちを告げてくれたのに」

ああ・・・と、奈生の表情が歪んだ。

やっぱり、最初に謝っておくべきだったかと、明憲は臍を噛んだ。
いや、それよりも先に、うかつにお茶になんか誘うべきではなかったのかもしれない。
あけっぴろげで姉御肌の奈生は、だからこそプライドも高かった。

気まずい別れ方をして2年あまり。

さっぱりしている奈生だから、とっくに忘れているかもしれない、あっけらかんと笑い飛ばすかもしれないと思っていた自分の軽薄さに悔やまれる。
突然の再会だったから、心の整理がつかないまま、ついつい自分の想いが先行してしまった。

ほんの一瞬、濃いアイメークそのものの強い視線と、明憲の不安な視線が絡み合う。

「あれは・・・、いいのよ。私の気持ちを知って、彼女・・・」
「え?」

腰を半分あげたままの明憲を残し、奈生は逃げるようにして行ってしまった。
慌てて空のカップをゴミ箱に放り込み、彼女のあとを追おうとした明憲は、「お客様!」という声に振り返った。
明憲を追いかけてきたショップスタッフの手には、大きなサングラスが乗っかっている。
奈生が忘れたものだった。
礼を言って受け取り、店の外に飛び出したが、もう彼女の姿はどこにもなかった。


テスト最終日。
開放感とともにテキストを机の中から引っ張り出した明憲は、クラスメイトの誘いを笑顔で断って、キャンパスを大きなストライドで横切っていった。
行先は芸術学部エリア。
会えるとは思わなかったが、手には奈生のサングラスを持っている。

誰か奈生の知り合いにでも会えれば預けてもいいし、芸術学部棟の事務所に届けてもいい。

けれど、その心配はいらなかった。
なぜなら、異世界とも見まごう芸術学部エリアに脚を踏み入れた途端、賑やかな笑い声とともに、多くの崇拝者を従えた奈生を発見したからだった。

奈生を中心にした半円形のグループが、明憲の目の前を歩いていた。
総勢6人。
いずれもが勝るとも劣らないほど派手で大胆で奇抜なファッションに身を固めている。
まるでそこだけがカーニバルの仮装パーティをしているかのようだ。

もっとも、あたりを見回してみれば、似たような格好をした学生がわんさかといたが。

「奈生!迫井奈生!」

声をかけると、お祭り騒ぎの連中が一斉にこちらを向いた。
中央に立っていた奈生は、一瞬、胡散臭げな顔をして明憲を睨んだが、やがて、「あら、是枝じゃない」と、まるでつい今さっき別れてきたみたいな、ちょっとばかり皮肉なトーンで応えた。

明憲は、手にしていたサングラスを顔の高さに掲げ、それをわざわざ持ってきてやったとアピールする。
奈生は、一瞬、眉をひそめると、取り巻きの連中にひとことふたこと告げ、さっさとこちらに向かって歩いてきた。

向かい合って立つ。
明憲は180センチ。
奈生は160センチ。
もっとも、彼女は10センチはあるような高いヒールのミュールを履いているし、その上、今日は派手に盛り上がったウェービーヘアなので、傍から見れば身長差はさほどないだろう。

先日の気まずい別れを思い出せば、なんと切り出すべきなのか迷うが、奈生はからかうような、あざ笑うような表情で明憲の顔を見上げている。
今日も派手なメイクをしているが、やはりその目は大きくて可愛らしい。
その茶目っ気あふれる視線にとらわれて、明憲はひどくバツが悪くなって視線をそらしそうになった。

もっとも、その前に、「さんきゅ、なくしちゃったかと思ってたの」と、サングラスをひっさらわれ、憮然として彼女を見下ろした。
「スタバに忘れたんじゃないか。・・・いきなり席を立つから」
ほんの少しだけ非難するように言えば、「あら」と、楽しげな声が返ってくる。
「だって、是枝、アタシを怒らせたんでしょ?」
「怒らせたって・・・?」
「美生のことばっかり、言った。違う?」
冗談めかして言われて、また頬が熱くなる。

「そんなんじゃ、ない」
思った以上に強い否定の言葉が出てしまったが、奈生は気にとめない。
戻ってきた大きなサングラスのヘムを噛むと、いきなりぐうっと体を近づけてきた。

「ねぇ、是枝」
「な、なんだよ」

たじろぎながら答えると、大ぶりなサングラスの下で、燃えるようなオレンジ色に彩られた唇が、「2年前の返事、私は聞いてないわ」と、言う。
「え?」
「だから、私、卒業式の後で言ったでしょ。
『好きです。付き合って』って。
なのに、是枝ったら、友達が呼んでるからなんてごまかして逃げちゃった。
ねぇ、ちゃんと返事してよ」
「でも・・・、あれはいいって、この間・・・」
「やっぱりはっきり言って欲しい。
私、高校1年の時に同じクラスになった時から、ずっと是枝のことが好きだったの。
是枝だって、私のことほかの男の子みたいに呼び捨てで呼んでくれたし、クラスで一番仲良くしてくれたじゃない。
是枝は県外の大学に行っちゃったから、今まで会う機会もなかったけれど、私、ずっと忘れなかった。
ねぇ、是枝、同じ大学になったのも何かの縁よ、きっと。
是枝はかっこいいし、頭もいいし、私と一緒に歩いてもバランス取れるでしょ?
ねぇ、好きなの。是枝は?」

奈生のあまりにも軽快で強引な告白に、明憲はあっけにとられていた。
先日、ほんの数日前、気まずい別れ方をしたというのに、この臆面のなさと屈託のなさはどうだ。

しかし、期待満々の大きな目でじっとみつめられているうちに、明憲は、おかしくなって笑い出してしまった。

「奈生、止せよ。お前、相変わらずだな。
この間は、少しはおとなしくなったのかと思って調子狂ったけれど、なんだ、高校時代とちっとも変わってないじゃないか。
こっちの都合や感情なんてお構いなし。
そこがお前のいいところだし、こっちも気構えずに付き合えるけれど、ちょっと心臓に悪いよ」
「話をそらさないでよ、是枝。私はこれでも真剣なんだから。ねぇ、返事してよ」
「お前はいい友達だった。気さくに話せたし、お前と一緒にいると楽しかった」
「なら、いいじゃない。また楽しく大学生活楽しもうよ」
「友達ならね」

「じゃぁ、美生ならいいの?」

いきなりつっこまれて、明憲は、うっと言葉をのどに詰まらせた。
目の前のオレンジ色の唇の両側が、うふふと上がる。
そして、手にしていたサングラスをもったいぶった手つきでかけると、明憲の顔を真正面から見上げた。

あっと、声が漏れる。

違う。
先日の奈生と、今日の奈生は違う。
もちろん、先日の奈生はブロンドのボブヘアのウィッグで、今日はライオンのたてがみのように逆立ったウェービーヘア。
同じアバンギャルドファッションとはいえ、先日はモノトーンで今日はレインボーカラーだ。
相違点はいくらでも具体的に挙げられる。

けれど、言葉にはできないどこかが違う。
しいて言えば、しいて言えば・・・。

大きなサングラスの下の唇が、また、ウフフと楽しげに笑う。

「是枝、気がつかなかったの?この間、会ったのは、美生よ」
「まさか。だって、彼女の大学は、創聖・・・」
「あら、やっぱり、美生の行ったとこは知ってたのね。
私がここに来てたことは知らなかったくせに」

拗ねるように言われて、また明憲は言葉につまる。
奈生は、舌なめずりをするようにサングラスをずらして明憲を見上げると、人差し指を唇に当て、また楽しげに笑った。
それから、立ちすくむ彼の周りをゆっくりと歩き出す。

「私ね、第二外国語の英語を2年連続落としちゃって、あまりにかっこ悪いから英文科に行っている美生に泣きついたの。
彼女の大学、もう試験も終わってるし、英語のクラスは1年と2年ばっかりだから、誰も私たちのすりかわりには気づかないからって。
それに、いつもの派手な格好していれば、それだけでみんな私だと思うでしょ?
美生は嫌がったけれど、彼女、私の頼みはいつも断れないのよ。
だって、妹思いの優しいおねえちゃんなんだもん。
おかげで私、いつもいつも助けられている。
でも、まさか、私になりすましていた美生が是枝と再会しちゃうなんて、これこそ何かの縁、運命じゃないの?」

「・・・って・・・」

明憲は、目を幾度か瞬いた。

あれは美生だったって?
いくらなんでも、内気な美生と奈生を間違えるなんて、ありえない・・・はずだが。

いや、確かに、あの時、2年ぶりとはいえ、最初は会話が弾まなかった。
お互いぎこちなくて、戸惑ったのは確かだった。

あの時、何を話したっけ、え~っと、え~っと・・・。

「あの日ねぇ、家に帰ってきた美生に試験の首尾を聞きに行ったら、彼女、ほとんど泣きそうな顔してるの。
びっくりして聞き出したら、やっぱり不正はできないと思って帰ろうとしたら、是枝と再会してお茶のんだって。
最初は驚いて逃げたくなったけれど、是枝が奈生だと思って気軽に話しかけてくれたから、おしゃべりできたって言うの。
美生もいつもと違うメイクとファッションだから、大胆になれたみたい。
だから・・・」
「だから・・・?」

明憲の周りをぐるっとひと回りした奈生は、サングラスを外すと、またニッコリと笑った。
今日のメイクはひまわりでもイメージしているのか、やたらキラキラと派手派手しい。
けれど、とても奈生に似合っている。
少なくとも、先日の美生よりは。

「あとは、直接本人に聞きなさいな」
「は?」

奈生は、ひょいと体を傾けると、明憲の背後に立つ人影に呼びかけた。

「美生、今日のショッピングは延期しよ。
誕生日のプレゼント交換は、また後日ということで。
今日こそ是枝に、『どうして是枝くんは奈生の事は呼び捨てするのに、私のことは名前でさえ呼んでくれないの?』って、聞いてご覧。
是枝はちょっと見は軽く見えるし、気さくな人間に見えるけれど、美生と同じで、シャイで恥ずかしがり屋で内気なところがあるから、ほんとに好きな女の子ことを気軽に名前でなんかで呼べないって答えてくれるから」

「奈生!」

明憲の背後から、奈生とほとんど同じトーンの声が奈生をたしなめる。
けれど、明憲は振り返れない。

「是枝。2年前はごめんね。
アタシ、美生がずっと是枝のこと好きだって知っていたの。
でも、美生ったら是枝としゃべることもできない。
是枝だって、美生のこと意識しすぎて話しかけることも遠慮しちゃって・・・。
何度か私、私と是枝が一緒にしゃべっている時に美生を引っ張りこもうとしたけれど、お互いに恥ずかしがってすれ違ってばかりでしょ。
もう、もどかしくてもどかしくて、最後には腹立っちゃったんだ。
卒業式の日も、これが最後かもしれないから打ち明けろって言ったのに、美生は尻込みしちゃって。
だから、私が、美生の代わりに是枝に言ったの。
もっとも、私が全部言う前に、是枝ったら、友達が呼んでるからなんて逃げちゃうんだもん」
「え・・・、は?」

「とにかくっと」
奈生はサングラスをかけ直すと、両手を後ろに回して胸を張って明憲の前に立った。

「もういい加減、恥ずかしがり屋さんは卒業してくれる?
お互い、もう二十を超えた大人なんだからね。
それに、是枝、一応アドバイスしておくけれど、オシロイバナってね、花言葉は『内気』なんて慎ましいけれど、遺伝子がどんどん変異するらしくて、同じ株に赤やピンクや白い色の花が同時に付いちゃうような割と節操なしの花なのよ。
美生は内気でおしとやかだなんて思っていたら大間違い。
この間の私の服だって、似合っていたでしょ?
いつか私と美生が逆転しちゃうことだってあるかもしれないわよ」

思いっきりバチバチとウィンクすると、奈生は、じゃね~なんて手を振りながら行ってしまった。

残されたのは、まるでリクルートスーツみたいな真っ白いカッターシャツと黒いタイトスカートの美生と、あっけにとられたままの明憲だけ。

あまりのバツの悪さにゆっくり振り返ると、美生は美生で身の置き所がないように視線をそらしている。

「あの・・・」
「はい」

一体どう話の接ぎ穂を探していいものやら、明憲は途方にくれる。

「なんで・・・、この間、ホントのこと言わなかったんだ?
自分は奈生じゃないって」
責めたつもりはないのだけれど、美生は、怯えたように肩をすくめた。
「怒ってるわけじゃない。ただ・・・、なんか、騙されたみたいで・・・。
・・・みたい、じゃなくて、マジに騙されたのか。
なんか、俺、アホみたいじゃないか。
奈生だとばっかり思ってたから、その・・・アネキ・・・美生のこと・・・」

ほんとに初めて名前を呼ばれて、美生が、顔を上げる。
ナチュラルメイクの目が大きく見開かれて、明憲の顔をまぶしげに見上げた。

2年ぶりに見る美生の顔。
うっすらとメイクしているが、先日の隈取めいたメイクに比べれば、ずっと明憲好みには間違いない。

けれど、慌てて明憲は視線をそらした。
みつめてなんていられない。
心臓がバクバクし始めて、でも、同じ心臓の片隅が、キュキュっと可愛らしく鳴いたりして・・・。

「あの、あのさ、歩こうか。もう、ここには用ないし」

ぎくしゃくと歩き出すと、美生も黙って横に並ぶ。
彼女が小走りになっているのに気がついて、明憲は歩調を緩めた。

芸術学部はキャンパスの一番奥にあるので、正門までは結構距離がある。
試験が終わって清々した顔をした学生や、レポートを指導教諭に提出するために走っている学生、早速クラブ活動を始めた人間たちが、キャンパスの中を行き交っている。

その中を、ゆっくりゆっくりとふたりは歩いてゆく。
真昼の太陽は容赦なくて、汗が滴り落ちてくるけれど、いつものようにでかいタオルで拭くのもなんだかはばかられる。
黙っているのも気詰まりで、明憲は、ちらっとかたわらの美生を見下ろした。

「それ、リクルートスーツ?今日はセミナーか何か?」
「え・・・、うん。エントリーシートの書き方とか、面接の受け方とか」
「第一志望はどこ?」
「外資系商社」
「奈生は、就職しないって言っていたけれど?」
「あの子はあれでいいの。才能あるもの」
「俺には、ただの奇抜なファッションだとしか思えないけれど?
ほんと、まるで似てない双子だね」

隣で、くすくすと美生が笑う。

「何?」
「似てないけれど、似てるの、やっぱり、私たち」
「どこが?」
「この間、是枝くんに言われて思い出したの、誕生日花のこと」
「え?オシロイバナとサボテン?」
「久しぶりに思い出して、なんとなくネットで調べてみたの。
オシロイバナとサボテンだなんて、ほんとにまるで似てないでしょ?
でもね、花言葉が共通なの」
「花言葉?・・・そういや、さっき、奈生がオシロイバナの花言葉は『内気』だとか言ってたけれど」

また美生が思い出したように笑っている。
「サボテンの花言葉はね、一番有名なのは『情熱』」
「お・・・、奈生にはピッタリ」
「でもね」
「うん」
「『内気な乙女』っていうのもあるのよ」
「げ・・・、奈生が聞いたらバカ笑いしそうだな」
「是枝・・・くん」
「ん?」
「・・・2年前の卒業式、奈生は私の気持ちを伝えようとしてくれた」
「あ・・・、うん」

「でもね、奈生が私の気持ちを知っていたように、私も奈生の気持ちを知っていたの。
奈生は、いつもあんな格好して賑やかだけれど、ホントはね、ホントの想いは心の中にそっと大切に抱いているの。
初恋なんだもん、だからなかなか口に出すことができなくて・・・」

それ以上、美生は言おうとはしなかった。
明憲もそれ以上を追求はできなかった。
ただ黙って並んで歩く。

正門まであと20m。

このあとどうしようかと明憲は思う。

またスタバでいいかな。

そっと隣をうかがうと、美生もちょうど顔を上げたところで、ばっちり視線が絡まってしまった。

お互いに頬を染めながら、慌てて視線をそらす。

「お互い、もう二十を超えた大人なんだからね」と、奈生は言ったけれど、そう簡単にいくかよ。

あっさりと去っていった奈央の背中を思い出しつつ、明憲は心の中でつぶやいた。



7月28日の誕生日花:オシロイバナ
           花言葉は、内気、あなたを想う、臆病、恋を疑う
7月29日の誕生日花:サボテン
           花言葉は、情熱、偉大、温情、内気な乙女、内気な心




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