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「7月の花」
14日 チダケサシ

ふさわしいのは・・・~チダケサシ~【前編】

 ←繭の中で【後編】 →ふさわしいのは・・・~チダケサシ~【後編】
【前 編】


汗が滴り落ちてくる。

真っ白い半袖カッターシャツを汗で背中に張り付かせながら、佐崎大和は前をゆく形の良いショートカットの同級生の後ろ数メートルをついて行く格好で、歩いていた。
最寄駅からの帰り道は一緒。
何しろ家は隣同士なのだから。
とはいえ、幼馴染というほど付き合いが長いわけではない。

ショートカットの彼女は藍沢律子。
高校入学と同時に隣の田山さんちに下宿した同い年の女の子だ。
隣の田山さんのおばちゃんは、大和のおかん(母親)と同い年だというが、道端でおしゃべりなんかしている様子を見れば、十歳くらいの年の差があるように見える。
もちろん、大和の母親は年相応(43歳)で、田山のおばちゃんはお化粧もしていないのにとっても綺麗で、独身だと言っても通るかもしれない。
アイメイクもしていないのに大きな目はとても印象的で、すっと通った鼻筋はちょっと生意気そうにも見えるけれど、その下にある唇がとても形がよくて、とても上品に見えるのがいいと、大和は密かに思っている。
とにかく、この山あいの地方都市には珍しいくらいに垢抜けた美人なのだ。

それもそのはず、田山のおばちゃんは、美貌で名高い世界的なソプラノ歌手、RUI AIZAWAの実の妹だからだ。
・・・とはいえ、大和はRUI AIZAWAなんて知らない。

5年前に田山のおじちゃんがおばちゃんと結婚した時に、おかんが、
「すごいわよねぇ、隣の田山さんのお嫁さん、あのRUI AIZAWAの妹なんですってよ!
田山さんのご両親、亡くなるまで、国文科の大学の先生なんてお給料も安くて嫁のキテがないなんて嘆いていらしたけれど、あのRUI AIZAWAの妹さんと結婚するなんて、なかなかやるわよねぇ」
と、父親相手に超早口で喋っていたのを聞いただけだ。
その時、おやつと称してでかいホットケーキをくわえていた二番目のアネキが、
「うっそ~。あのRUI AUZAWAの妹?お母さん、サインもらってきてよ、サイン!」
と、突拍子もない声を上げたので、なるほどそれほど有名なのかと認識だけはした。

んで、あとからサイトでRUI AIZAWAのお顔を拝見し、確かに恐ろしいほど迫力ある美貌だけれど、田山のおばちゃんとはあまり似ていないなと正直な感想を持った。
田山のおばちゃんは、もっと控えめで知的な美人だ。
例えれば、RUI AIZAWAは真紅の薔薇で、田山のおばちゃんは・・・ん~~~~、白百合か?・・・ぬわんちゃって。

それは置いといて。

パートの傍ら町内に友人も多いおかんは、次々といろんな話を家に持って帰ってきた。
田山のおじちゃんとおばちゃんは大学の同級生で、もう20年前には結婚の約束をしていたらしいけれど、「スキャンダル女王の妹との結婚なんて許さん!」と、おじいちゃんとおばあちゃんが反対したせいで結婚できなかったのだそうだ。
でも、反対していた両親は6年前に相次いで亡くなり、その喪が明けたと同時に田山のおじちゃんは初恋を実らせておばちゃんと結婚したのだとか。
・・・てなことを知ったのは、中学を卒業してすぐのことだった。

そして同じ頃、律子と出会ったのだ。

高校も電車で10分ほどの比較的近い学校に決まっていたし、特にすることもなく毎日ブラブラと過ごしていた春休み。
その日も、近くの公園でバットの素振りを言い訳程度に終え、そのバットをゴルフクラブみたいに振りながら帰宅すると、家の前でおかんと田山のおばちゃんが、例によって井戸端会議に興じていた。

またかよ、と心の中でうんざりとぼやき、「こんちわ」と、いつもの如くおざなりの挨拶をして門の中に入ろうとした時、田山のおばちゃんの向こう側に立っていた人影に気がついた。

思わず足が止まる・・・前に、「ほら、ヤマト、アイサツアイサツ」と、おかんにむんずと腕を掴まれた。
小柄な割に馬鹿力のあるおかんに引っ張られ、大和はバランスを崩しながらもなんとか振り返り、おかんの横に立った。

「藍沢律子ちゃんですって。あんたと同じ高校行くんだって。
内申書なしで公立に受かっちゃうんだから、すごいよね」
おかんのはしゃぐような声に、大和は自分の斜め前に立つ女の子を反射的に見た。
キリッとしたショートカットが妙に決まった、田山のおばちゃんとよく似た面差しの、つまりは大きな目はいささかきつめだが、かなりの美人がそこに立っていた。
まだ肌寒い初春の清らかな光を全て集めたように・・・と、その時、大和は柄にもなく思ったのだが、実際は、洗いざらしのデニムにシンプルなトレーナー姿。
身長はおばちゃんと同じくらい、つまりは大和より15センチほど小さいが、照れも見せずにまっすぐに大和の不躾な視線を跳ね返してくる。
唇をキュッと引き締めて、顎をあげ、大和以外の男子なら完全に迫力負けしそうな感じだ。

成績は中途半端な上位50番辺り、けれど、野球部では4番を打ち、県下の選抜チームに選ばれた大和だからこそ、少々きつい視線でも受け止めることができた次第。

「こんにちは、ヤマトくん。姪の藍沢律子です。
しばらくうちにいることになったから、どうぞよろしくね」

・・・ってことは、あのRUI AIZAWAの娘って事?
と、考えたのが顔に出てしまったのか、その律子の目が、きらりと大和を睨めあげてきた。
その横で、田山のおばちゃんがちょっとだけ複雑そうに微笑んだ。

大和が予想したとおり、律子はRUI AIZAWAの娘だと、家に入るなりおかんが言いだした。

RUI AIZAWAはもちろん既婚者だったが、彼女が世界的に有名なのは、その美貌と実力だけがその理由ではなかった。
夫、つまり律子の父親は、RUIの出身音楽大学の指導教授だったらしいが、RUIは夫のサポートを得て活躍の場が広がるに連れて、ひとまわり以上も年上の夫だけでは飽き足らなくなったらしい。
共演者はもちろん、オーケストラのコンダクターやコンサートマスター、はてはスポンサーの息子やステージ演出家と、次々と浮名を流し、もちろんそれはその名声が世界に広がるより早くグローバルなものになっていた。

大学教授だった夫は、RUIの醜聞をおおらかに受け止めていたが、3年前、つまり、律子の中学卒業と同時に、「余生は心穏やかに暮らしたい」と言って、自分と同年代の未亡人と再婚した。
いや、その前に、アメリカで公演中のRUIに離婚届を送り、親権も放棄、無事、それが受理されると同時に再婚を果たした。

RUIは1年の半分以上を海外で過ごす。
一人っ子だった律子の処遇に困ったRUIは、40間近になってやっと想いを遂げ、結婚した妹に一人娘を押し付けることにしたらしい。
律子は最初、一人暮らしをすると頑張っていたらしいが、田山のおじちゃん、叔母ちゃんが「それならせめて高校の3年間だけでも」と、説得して、こんなド田舎まで連れてこられたそうだ。

一体そんな話、どこから仕入れてくるのかと思いきや、ちゃっかりと田山のおばちゃんから聞き出したらしい。
もっとも、おかんはさほど人が悪いわけではなく、それをほかで言いふらしたりはしない。
やたらミーハーなくせに、おかんの薫陶ヨロシク、無責任に噂を広めたりしない二人のアネキたちも、ちゃんと節度をわきまえていた。
誰も知人のいないここに嫁いできた田山のおばちゃんを支えてきたのは、何を隠そう、我が家だと、大和は密かに誇りに思っていたのだ。

まだまだ排他的な田舎では、そんなお隣さんは貴重だ。
田山のおばちゃんは、それを知っているからこそ、大和のおかんにはある程度のことを打ち明けることで、信頼していることを示しているのだろう。

もっとも、律子が田山家に引き取られてきた理由は、すぐにこのあたりに広まってしまった。
何しろ、世界を股にかけて恋多き女が、デビュー前からの庇護者である夫からとうとう三行半を突きつけられたことは、週刊誌ネタにはうってつけだった。
律子も未成年であることを考慮され、高校の制服姿の写真には目隠しがされていたが、ご町内の人間にはバレバレ。
おかんが言うまでもなく、律子も田山のおばちゃん同様、このあたりの超有名人になってしまったということだ。

もっとも、律子は全く動じなかった。
田山のおばちゃんも、物見高いご町内のヒマ人の好奇心丸出しの視線や周囲の騒ぎなどを軽く受け流していた。

おかんに言わせれば、「二人とも、今までもRUI AIZAWAに散々傷つけられてきたからね。いまさら何言われようが、関係ないって割り切れるそうよ」ということだった。

以来3年、律子は高校内外で、高嶺の花として常に注目されている。
県外からの受験なので、参考になる内申書なし、テスト一発で合格できる高校を選ぶしかなかったという事情もあり、律子にとって大和の高校レベルは少々物足りなかったようだ。
常に学年トップを走り、普通科だけでなく偏差値では上の英数科の生徒たちも凌駕していた。

「なんで進学校の私立行かねぇんだよ!」と、成績では足元に這い蹲るしかない男どもはよくそうやってぼやいたが、それは律子の勝手だから致し方ない。
(あとから知ったが、律子は幼稚園から超有名な私立学校に通っていたらしいが、親がRUI AIZAWAだということで、プライドの高いセレブの子女に相当いじめられたらしい。で、もう私立はこりごりだと田山のおばちゃんに訴えていたそうな)

最初はそのバックボーンと圧倒的な美貌に対して反感と嫉妬から警戒していた女子たちだったが、入学早々、小学生にも間違われてしまいそうなほど小柄なクラスメイトが、少々意地悪な中年教師の皮肉にさらされた時、ひやりと皮肉を返してやり込めてしまったのを目の当たりにして度肝を抜かれたらしい。
クラスメイトには微妙に距離を置いてはいるが、話しかければ普通に会話に入ってくるし、勉強だって変に優越感を持つことなく懇切丁寧に教えてくれる。

何よりも、常に凛と背筋を伸ばした立ち姿が、宝塚の男役も真っ青なほどカッコイイと、女子たちのあいだでは密かに言い交わされていた。
その美貌で、皮肉な教師や乱暴な男子をひと睨みすれば、誰も逆らえない。
その結果、女子の圧倒的な支持を受けて、2年、3年とクラス委員を仰せつかっている。
もっとも、男子からは、「あれだけ美人なのに、それ以上に気が強いからなぁ・・・」と、残念がられているのが実情だ。

一方、大和はといえば、高校入学と同時に野球部に入部。
現在は、全国の球児同様、夏の甲子園を目指し、朝から晩まで真っ黒になってグランドを駆け回っている(とはいえ、野球部の戦績はここ数年、夏の予選3回戦敗退が最高だが)。
さすがに高校では4番を打つことは叶わなかったが、大柄な割に機敏に動くショートとして県下に名を知らしめている。

成績はイマイチだけれど、精悍なマスクと根っから陽性な性格は女子にも男子にも好感をもたれ、女子からは時々想いを寄せられてはいるが、今は、野球一筋!のケンゼンな高校生だった。

もっとも、今は期末テスト中。
さすがに校則でテスト前1週間とテスト中はクラブも休み。

てなことで、律子とは、偶然駅から一緒になり(ということは学校を出た時から一緒だったということにもなるが)、帰る方向が同じだから前後になって歩いている次第。
もっとも、律子は大和の存在など、いつも意識の外だ。
両家の良好な関係からすれば、もう少し親しくなっていてもいいはずだが、二人は軽く挨拶を交わす程度。
大学生の二人のアネキとはもう少し親しいようだが、大和は単なる汗臭い野球バカという認識でしかないようだ。

大和は毎日朝練と夕練があるので、お隣さんとはいえ、通学電車が同じになることはない。
3年目にして初めてクラスは一緒になったが、かといって今さら親しげに言葉を交わすこともなく、今に至っている。

もっとも、同じクラスになって初めて、大和は噂にしか聞いたことのなかった律子の存在感の大きさを実感し、同時に「孤高」という言葉の意味を初めて知った。
女子たちは律子に憧れや尊敬を集めてはいるが、同じレベルで親しく付き合えるというわけではないようだ。
女子高生といえば、恋バナやアイドルの噂に明け暮れるのがフツーだが、律子はそんな話の輪にはかたくなに交わろうとはしない。
優等生とはいささかニュアンスの違う、潔癖でストイックなまでのその姿勢は、デリカシーとは無縁の大和から見てもどこか痛々しく、クラスメイトたちにはいささか煙たいものがあるのだろう。
一目置かれるというのは、一歩分だけ距離を置かれるということと同義語なのだ。

しかし・・・と、大和は思う。
今、目の前を歩いている律子は、いつも以上に周囲に距離を置いている。
口をへの字に曲げ(多分)、前をまっすぐ向いて、「絶対に私に話しかけるなオーラ」を全開に歩いている。

心当たりはある。
だから、ストライドは絶対的に大きい大和が律子を追い越すのは簡単な話なのだが、追い越せない。

二人が歩いているのは閑静な住宅街の中を通る道。
二人の家はまっすぐにあと5分ほど歩いたところにある。
ところが、律子はふいっと、右に曲がったのだ。

2、3歩遅れてその曲がり角に立った大和は、振り返りもせずに歩いてゆく頑なな背中をしばらく見つめていた。

やっぱり・・・。

梅雨が明けたあとの眩い光を跳ね返す肩には力が入り、足取りも完全に怒っている。
大和は、しばし逡巡した。
このまま彼女のあとを追いかけるべきか、それとも彼女を一人にすべきか。

あたりは暑さに恐れをなしたのか、しんと静まり返っている。
住宅街といっても、今では主流のオープン外構の家並みではなく、ほとんどの家がコンクリートブロックの塀で囲まれているような古い町だ。
住人は40代以上が多く、小学生がいる家庭は少ないのか、子供の声さえ聞こえてこない。
アスファルトの道を痛いほどの陽射しがジリジリと焼き、まだ7月中旬だというのに、あちらこちらに陽炎さえ立ち上っている。
その陽炎さえ蹴散らす勢いで律子は歩いてゆくのだ。

大和は唇を引き締めると、薄汚れたスニーカーのかかとをキュッと鳴らして律子の背中を追いかけた。

律子はどんどん歩いてゆく。
コンクリートブロックや生垣が延々と続く住宅街。
どこへ行こうというのか、まるでよどみない足運びに、大和は律子のあとを追いかけたことを後悔し始めた。
ひょっとしたら彼女にはどこか行くところがあるのかもしれない。
試験は明日がラスト。
誰かに勉強を教える予定でもあるのか。

各家からは様々な植物や木の枝が夏の旺盛な生命力そのままに、塀の上から溢れ出している。
百日紅やひまわり、朝顔くらいなら大和にもわかるが、名も知らぬ花が赤やオレンジ色、ピンクなど、鮮やかで艶やかな色に咲きこぼれ、咲き誇り、大和は改めて夏の猛々しさにうんざりするほどだった。

律子は塀の上からはみ出してきた花や枝が、顔や体に当たるのも構わずに歩いてゆく。
大和は一応、手で払いながらあとをついてゆく。

一体どれほど歩いたのか。
最初疑ったように誰かと試験勉強するのではないことは、大和にもわかった。
ただ、律子は歩いているのだ。多分、闇雲に。

汗が目に入って痛い。
さすがに坊主頭ではないが、スポーツ刈りの頭から流れ落ちてくる汗が顔を滑り落ち、シャツが背中に張り付く。
律子だって暑いだろうに、その足取りは少しも揺るがない。

と、ふいにその足が止まった。
大和も足を止める。

律子はゆっくりと傍らのコンクリート塀を見上げた。
その庭からは、大輪の花が塀の上に覆いかぶさるようにして溢れていた。
庭木なのか、こんもりとした緑のかたまりからツルのような太い茎が幾本も道路へと伸び、その茎に大きな花が鈴なりに咲いている。

濃いオレンジ色の美しい花だった。
いくつもの花を支える茎は重たげに垂れ下がっているが、花々はすべて空を仰ぐように上に向かって花開いている。
まるでラッパのような形をした花は、今にも堂々と歌いだしそうだ。
透明感のある空の青とオレンジ色のコントラストは見事で、美術は及第点スレスレしか取れなかった大和でさえ、うなるほどだ。

大和が見つめる中、律子はしばらくその花を見上げていた。
白い横顔には汗が光っている。
セミさえ鳴き声をひそめる真昼。
天上を眩い火の玉が焦がしている。

ふいに律子の手が伸びた。
重たげにぶら下がっていた茎の先、顔の一番近くで咲いていた花をギュッと握りつぶした。
そして、いきなり引きちぎる。
もう一方の手で持っていた学生鞄が音を立てて足元に落ち、律子はオレンジ色の花群れの中に両手を突っ込むと、茎を思いっきり引っ張った。
緑の山が大きくゆらぎ、まるで律子を襲うかのように道路側へこぼれてくる。
ざわざわと木が揺れ、律子の足元にあっけないほどバラバラと花が散っていった。

大和は慌てて駆け寄ると、乱暴に花群れを引っ張り出そうとしている律子の手を止めた。

大柄な大和が背後から覆いかぶさるようにして彼女の両手をつかむと、まるでその花群れを庭から引っこぬこうとしているのが大和のようにも見えてしまう。

「止せ、委員長。人んちの庭だぞ」

あたりにはばかるように、庭の持ち主に気づかれないようにと声を低くして嗜めるが、律子は身悶えするようにして大和の手から逃れようとする。
もっとも、大和にかなうはずがない。

大和は律子の手を花から引き剥がし、引きずるようにしてその場を離れた。


大和が自宅前に戻ったのは、それから15分後のことだった。
律子はあれからすぐに大和を振り切るようにして駆けて行ってしまった。
その直前、自分を振り返った律子の目が、怒りと、それとほとんど同量の悲哀に揺れていたのを大和は見逃さなかった。

結局、大和はあの花が咲いていた家の前まで戻り、放り出されたままだった律子の学生鞄を拾い上げた。
律子の傍若のために散り落ちた花が鞄を埋め尽くすほどだった。
それは、律子のこの花に対する憎悪の深さを語っていた。

二つの学生鞄を抱えた大和は、勝手知ったるなんたらでためらいなく田山家の古い門をくぐったが、玄関ドアの前では、ほんの少しだけ逡巡した。
おばちゃんを呼び出して鞄を渡せば、なぜ大和が律子の鞄を持って帰ってきたのかの理由を説明しなくてはならなくなる。

黙って玄関脇に置いて帰ろうと思って体を折り曲げた時、いきなりドアが開いた。
うわっとのけぞると、そこに立っていたのは田山のおばちゃんだった。





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