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愛を刻む夜に

愛を刻む夜に 第二部【第4話】

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【第4話】


どれほど呆然とした時間が過ぎたのか、桂がセヨンと呼んだ女性は表情さえ失って立ちすくんでいる。
衝撃の強さに薄紅に刷いた唇さえ色を失い、わななきを抑えきれない。
桂は、ゆっくりとサングラスを外した。
これほどに容貌が変わり、サングラスもしていたというのに、自分を見分けた彼女にどう応えればいいのかわからない。

周囲の目が突き刺さってくる。
小さなざわめきが不審と好奇心をくるみこんで、楽しげに盛り上がる気配を漂わせるよりも早く、彼女を背後から支えていた男が背後に向って鋭く叫んだ。
日本語ではなかったので、物見高く眺めていた人間たちには意味は分からなかっただろうが、すぐに買い物客に紛れていたカジュアルな格好の男女が駆け寄ってくる。

その足音に、彼女は、はっと姿勢を正した。
目に浮かんでいた驚愕と絶望の光が、一瞬、火を放つようにして消えた。
自分を支えていた男の手を素早く振り払うと、その指で頬の涙をぬぐい、桂の顔を鋭角に仰ぐ。
彼女の足元で、ヒールが一度だけカッと鳴った。
その立ち直りの速さに、彼女の現在の立場と二人の間に横たわる歳月が垣間見えた。

何事かを背後に立つ男にささやくと、それをまた男が駆け寄ってきたスタッフたちに伝える。
女性スタッフが彼女を囲むようにして背を向けると、男は残った男たちにさらに何か指示した。
男たちが興味津々な視線を砕くように駆けてゆく。

その場に残ったのは、若い男と桂だけだった。
買い物客たちは期待したほどの修羅場がないことを悟り、名残惜し気に日常の買い物へと戻っていった。

「こちらへ」
若い男が陶器のような顔を向けてそういう。
桂は逆らわなかった。
男の数歩後を歩きながら、買い物客に交じってこちらを凝視している視線に気づく。
桂の右側なのでその姿は見えないが、視界の闇を裂くように突き刺さってくる強さが誰なのかを教えてくれる。

セヨンか、静流か。
いったい誰を探してここまで来たのか、桂にはすでに分からなかった。

若い男が案内したのはショッピングモールの駐車場だった。
もっとも店舗関係者用なのか、一般客の姿はない奥まった場所にあった。
促されるままにセダンの後部座席に乗ると、彼は無言のまま車を出した。

十数分後、桂は鮮やかな夏の陽ざしを帯びた葉群れの中にいた。
這いずり回った獰猛なジャングルとは似ても似つかない爽やかさに、懐かしさと忌々しさが吐き気のように湧き上がる。
もっとも、今回は、磨滅するほどに磨かれたガラスウォールを隔てているが。

霊峰を仰ぐ裾野にはいくつかの湖があり、そのすべてがリゾート観光地になっている。
桂が乗った車はその中でも一番俗化された湖畔を半周ほど巡り、するりと林の中へと入りこんだ。
深い森の懐深く、樹海に迷い込んだのではと思われた頃、目の前に現れたのが瀟洒な建物だった。
桂はその一室に案内され、既に10分以上、待たされている。

桂はガラスウォールの前で振り返った。
特殊ガラスなのか、外の景色は鮮明に見えるのに、室内に注ぐ光は薄いベールのように柔らかな紗がかかっている。
応接セットは豪華というよりはスタイリッシュで、薄いベージュの壁にバランスよく掲げられているいくつかの額も現代アートの範疇だろう。

桂は胸ポケットに入れていたサングラスをかけた。
同時に観音開きのドアが軽やかに開き、その中央に彼女が立っていた。
体をゆったりと包むクチナシ色のワンピースに着替え、先ほどはシニョンに結い上げていた髪の毛を肩に下ろしている。

彼女はドアのところに佇んだまま、逆光のシルエットに向って恐る恐る口を開いた
「あなたなの?本当に?」
若い頃よりは幾分はスキーになった声は、既に湿り気を帯びている。
桂はゆっくりとうなずいた。

彼女は、不安定な道を歩いているかのように一歩一歩踏みしめながら近づいてきた。
あと一歩踏み出せば手が届く、そこで立ち止まる。
淡い光の中に浮かび上がる彼女の顔には、恐れと疑惑と困惑と、ありとあらゆる感情がせめぎ合っていた。

それでも、美しいと桂は思う。
出会ったとき桂は20歳、セヨンは19歳だった。
あの日から既に21年たっている。

「サングラスを取って」
桂がサングラスを外すと、彼女は目や鼻を一つ一つ確かめるようにみつめ、それから左手で桂の頬に触れた。
狭い視界の中で、指先が冷たい。
その目に驚愕の色が走る。

「右目・・・、見えないの?義眼?」
「ああ」

左手が頬を滑り、あごから首筋を這う。
醜い引き攣れに触れた指先が戸惑い、躊躇し、怯えたのがわかる。

「けが?いつ?」
「・・・8年前」

幼い子どものようなあどけない口調で、セヨンは質問を重ねる。
桂の脳裏にふいに夏の日が蘇った。
大学3年生と留学生の出会い。
まだ日本語がおぼつかなかった彼女は、目の前のあらゆるものを指さしては、「あれは?」「これは?」「なんて言うの?」「どうして?」と桂を質問攻めにした。
桂は根気よく答えていたが、そのうち面倒くさくなり、いや、それよりも次々と質問を繰り出してくる愛らしい唇から目を離せなくなり、いきなり口づけた。

あの時のセヨンの顔!
驚きのあまり、言葉さえ失ってただ大きな目をさらに大きく見張っただけだった。
ただ、すぐにその瞳は輝いた。
好奇心のためではなく、喜びの涙のために。

今の年齢の半分でしかなかったあの頃。
今、セヨンはその年月を超えて桂に触れ、あの時と同じように質問を重ねる。

桂は、幻をうつつのものにするかのように桂の輪郭を辿り続けるセヨンをみつめていた。
まだふっくらとしていた頬は鋭利に削がれ、よく狸のようだとからかった大きな目は少しだけ彫りが深くなって、目じりには漣のようなしわが刻まれている。
細い眉、高い鼻梁、完璧なメイクで彩られた顔は、愛らしさを喪った分、凛とした中にたおやかさをうかがわせる表情を浮かべている。

ふいにその唇が引き結ばれた。
痛まし気に見上げていた目に光が奔り、その途端、暗い視界で頬が鳴った。
セヨンの左手が桂の右頬を打っていた。
桂のロングヘアが足掻くように宙に跳ね、その揺れが収まったとき、既にセヨンは背を向けて庭を凝視していた。
眩い光が風に揺れ、木々をさざめかしている。

「なぜあそこにいたの?偶然なの?」

桂は頬の痛みを奥歯でかみしめると、サングラスでセヨンとの距離を取った。
「答えて」
19歳だったセヨンからは想像すらできない、人に命令し慣れた口調で言う。
けれど、桂の答えを求めていなかったのか、「いつ、日本に帰って来たの?」と、重ねて尋ねて来た。
「・・・7、いや8年になる」
「8年・・・」
セヨンの背中が、絶望したように繰り返した。
「私は10年になる、日本に来られるようになって。なのに、再会できたのは今頃、なのね」

セヨンが振り返る。
泣き笑いのような表情で、また桂を見上げてくる。
「私たち、年を取ったわね。18年、経ったんですもの、当り前よね」
「いや・・・、君は変わらないよ。昔よりきれいになった」
セヨンが鼻で笑った。
「目が不自由になったのは確かなことみたいね。
でも、あなたが齢を取ったのも確かだわ。
昔はそんなこと言える人じゃなかった。
ただまっすぐで、口先だけのお世辞なんてこの世に存在することさえ信じられないような人だったのに」

皮肉っぽく言い捨てると、彼女はまた桂に背を向けた。
磨き抜かれたガラスウォールに彼女の姿が映っている。
言葉とは裏腹に溢れそうになっている感情を押し殺そうと、かみしめた唇がかすかにふるえている。

「お世辞じゃない。今の君を見たら誰でもそう思うだろう。
・・・高校生ぐらいの子どもがいるようには見えない」
できるだけさりげなく言葉にしたつもりだった。
どれほど自分の絶望が深かったか、それはひとかけらでさえ感づかれないようにと。
ところが、「子ども?」と、セヨンが呆れたように振り返った。
「こども?子ども、ですって?」
声が低くなった。
せせら笑うように、綺麗なアイラインの先端がさらに尖る。

「何の話?この17年間、あなたを待ち続けていた私に子どもですって?
誰がそんなことを?
それとも、裏切ってしまった私への言い訳に困って、苦し紛れにそんなことを言っているの?」

乾いた声で畳みかけてくる彼女を見下ろし、桂は眉間に苦渋の皺をよせた。
口調は冷静で冷笑的だが、桂の両腕をつかんでいる彼女の両手が食い込んでくる。
桂は唇を引き結んだ。

「なんで黙っているの?もう言い訳さえ思いつかないの?」

いや、セヨンに伝えたい言葉は溢れるほどにある。
いや、それは恨み言に近かった。
違う。
愛の言葉だったはずだ。
セヨンを自分がどれほど愛し、どれほど大切に想っているか、そのために自分がどれほどの犠牲を払おうとも構わなかった。
けれど、それは、あの日、一本の電話で砕けた。
確かめる術さえなかった。
電話は切られ、手紙の返事もなかった。伝言さえ届かなかった。
その沈黙を、桂はセヨンの答えだと思うしかなかったのだ。

今では、誰に対する恨み言なのか。
セヨンか、結婚を反対した大人たちに対してなのか、セヨンの心変わりを告げた彼へなのか。
それさえ分からなくなっている言葉は澱のように体の深いところに沈んでいるが、今さらかき回す術もない。

「ケイ!」

桂の言葉をせかすセヨンの言葉は、既に悲痛になっている。

その表情を見て、桂は、はっと我に返った。

何かが違う。

「セヨン、俺は、君が結婚したと聞いた。
いや、もう子どもが、身ごもっているから結婚すると」

桂をなじろうと口を開いたセヨンが、眉を寄せた。
くっきりと紅の刷かれた唇が、吐息だけで「え?」と問いかけてくる。
眉の間が白く開き、呆けたような表情で桂を見上げる。
セヨンの美しい唇がゆっくりと閉じられ、それから、「あっ」と悲鳴を上げた。
その顔に悲痛な色が漣のように広がってゆくのを見て、桂は自分の顔からも血の気が引いてゆくのを感じた。
二人、呆然と顔を見合わせる。
絡み合った視線がお互いに突き刺ささり、桂は目を見開いた。

「嘘よ!私が結婚だなんて、ましてや、ましてや子どもだなんて!!
ひどい!誰がそんなことを言ったの?」
「セヨン!」

そして、同時に二人は悟った。
誰がそんなウソを桂に伝えたのかを。



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