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夢吐(うそつ)き

夢吐き&バカラ 12

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先日、義父の3回忌のために徳島に帰省しておりました。
長男である義兄夫婦、姪っ子夫婦と子どもたち、三十路独身の甥っ子、そして、我が家の長男夫婦とその長男、次男夫婦、長女も勢ぞろい。
もちろん、義母や親戚も大勢集まって賑やかな3回忌でした。
長男夫婦、次男夫婦は日帰りしたのですが、久しぶりに従兄(弟)にあった甥っ子が大はしゃぎして二組もなかなか出発できずにいました。
一人残った長女と甥っ子は、老体が次々と布団に入ってゆくのを尻目に、夜中まで飲んでしゃべり続けていました。
若いって、コワい(^^;)

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大学に再入学した話などしながら歩いていると、「兄さん」と呼び止められた
驚いて振り返ると、先ほど別れたばかりのおとうとが息を切らして立っている。
肩にかけたリュックが揺れているのを見ると、結構な距離を引き返して来たようだ。

「どうした?母さんのことで何か言い忘れた?」
狼狽のあまり声が大きくなる。
彼は聡明そうに見える眉間に細い亀裂をいれた。

ふいにその顔が母に重なる。
母も困った時や考え事をしている時に同じような表情をした。
子どもの目から見ても、笑っているよりもそんな時の憂い顔のほうがきれいな女性だった。

「その・・・、兄さん、本当に知らなかったの?」
「なにを?」
「その・・・」

言いよどんだ和樹は、瑞人をちらりと上目遣いで見た後、泣き出しそうな表情をした。

「どうした?何か困ったことがあるなら・・・」
「おかあさんと僕は、大丈夫。兄さんが心配しなくても、大丈夫、だって・・・」
「何?」

怪訝に尋ねた俺の横で、瑞人がなぜか身じろぎした。
和樹も、一瞬、言葉を探すように視線をさまよわせる。

「兄さん、本当に知らないの?おかあさんに聞いてないの?」
「だから、何・・・」
「・・・僕とお母さん、血がつながっているから」

眉根を寄せてそれだけを一気に吐くと、和樹はぎゅっと唇を引き締めた。
その言葉が心の深いところに達する前に彼は俺ではなく瑞人に深く頭を下げると、引きはがすように身をひるがえした。
呆然と立っている俺を残して。

多分、俺は腑抜けた顔をしていたのだと思う。
瑞人に抱き寄せられるように肩を抱かれ、もう姿も見えなくなった異父弟に背を向けたとき、「なに?」と彼の顔を見上げたように思う。

瑞人は、「行こう」と、一言だけ告げた。
俺には逆らう理由もなかった。


瑞人の部屋に入ると、彼は黙ったまま俺を剥(む)いた。
文字通りセーターやシャツやジーンズや下着とともに、驚愕や悲しみやありとあらゆる感情まですべてを剥いたのだ。
そして、容赦なく抱いた。
夕暮れの指先が手探りでカーテンを引き始めたばかりの部屋で。

その頼りない光に助けを求めた手はすぐに大きな手で握り取られ、唇と舌で拒絶や嫌悪や恐怖は嘗めとられた。
瑞人は気づかいなど見せなかった。
女の子たちとはまるで違う弾力のある肌に踊らされ、触れれば悲鳴を上げてしまうほどの熱に浮かされ、自分をねじ伏せる力におののきながら夜の闇は時間を刻む。

わずかに開いたカーテンのスリットが告げる朝の気配に気がつくと、瑞人の腕が自分を抱きこんでいた。
お互いにみつめあうこともできないほど、狂おしく。

起きた気配に彼が腕の力を少しだけ緩め、顔を覗き込んでくる。
その時初めて、瑞人が眼鏡をしていないことに気づいた。
初めて見た瑞人の素顔に、なぜだかおののく。
その怯えをどう受け取ったのか、彼はなだめるようにささやいた。
「スポンサーになる契約書代りだ」

なに?
聞き返すと、瑞人は笑った。
俺はお前を抱く、と。



「ちょ、ちょっと待って。それ、どういうこと?その・・・。弟さんって、あの」
香子の声に、我に返る。

いったいどこまで彼女に話してしまったのかと狼狽し、思わず口を引き結ぶ。
いつの間にか、心が馳せてしまった。
瑞人との二人きりの時間と、彼女に話すべき言葉の間に張ったバリアが曖昧になり始めている。
いくら彼女の前で瑞人との関係を告白してしまったとはいえ、あからさまにできないことだってある。
けれど、香子の顔に浮かんでいるのは、俺への憐れみに近い色。

大丈夫、少しだけ安堵する。

「うん、おとうとは、父親の連れ子なんかじゃなかった。
お袋と新しい父親の間に生まれた子供だった。つまり、異父弟。
父親の不倫で離婚したと思っていたけれど、実際は今はやりのダブル不倫だったらしい。
だから、お互いイーブンで離婚したんじゃないのかな。
親父はすぐに再婚したけれど、さすがにお袋は俺が大学に入るまで我慢していたみたい」

あとから無理やり和樹に聞き出したことだが、母は結構な頻度で和樹たちの家を訪れていたようだ。
本当はお袋が和樹を身ごもったとき、離婚するべきだったと思う。
でも、父は半年間、夫婦同伴の海外出張を選んだ。
もっともそれは両家の祖父母への言い訳で、実際は、父は単身で海外へ行き、母は愛人の家の近くで出産したらしい。

俺には学校があったから、父方の祖父母の家に預けられた。
半年たってまた3人が一緒に住めるようになっても、俺は両親の変化には気づかなかった。
実際、私立中学受験対策で塾に通っていたし、ほかの日は体力づくりのためだと言われてスイミングやサッカー教室に通っていた。
離婚を急がなかったのは、いささか出自に厳しい私立中学校の受験に不利になるからだ。
父と祖父の母校に無事合格した時、二人はやっと離婚できた。
俺の気持ちなど忖度せず、二人は淡々と協議離婚の手続きを行った。

「ご両親のこと、恨んだりしてないの?」
「なんで?母は、母なりに俺を愛してくれていたよ、それは間違いない。
父とも時々会うけれど、いまだに俺のことは気にかけてくれている。
両親には十分愛されているという自覚はあるよ。
じゃなかったら、こんなに素直な人間に育つはずないでしょ?」

香子が大げさに顔を歪める。
俺は瑞人の真似をして、口角を上げる、皮肉たっぷりに。

瑞人には様々なことを話した。
長い間一人っ子だった俺には、瑞人は兄のような存在だった。

それじゃ近親相姦じゃないか。

自嘲的につぶやくと、香子が「なに?」と顔を上げる。
先ほどの怒りは表情の奥に潜み、今は好奇心のほうが勝っているようだった。

「その時に、野木の事情も知ったわけ?」

そう、寝物語に聞かされた。
彼の腕の中で。

もし、俺がそんな事情を抱えていなかったら、瑞人は俺を抱かなかったのかな?
それとも、和樹との邂逅は単なるきっかけで、いずれは同じベッドに入ったのだろうか?

そういえば、一度聞いたことがあったっけ。
 
あれは何度目の「閉ざされた光」の中だったんだろう?



「なに考えている?」
ふいに背中に回された手の熱さに我に返ると、眼鏡の奥の目が笑っている。
「眼鏡、したまま?」
咎めるように言うと、ああ、ごめん、ごめんと言いながら長い指がフレームをつまむ。

「瑞人」
「なに?」
「どうして拾ったの、俺を」

?マークを張り付けた表情で、彼が覗き込んでくる。
「あの夜」
「ああ・・・」

眼鏡をサイドテーブルの上にそっと置くと、彼は眉間を長い指で少しだけもんだ。
「疲れているの?」
「え、ああ。ちょっとトラブルが続いて。トラブルというよりクレームだけれど」
「少し眠る?30分経ったら起こしてあげる」

申し出が意外だったのか、瑞人はほんの少し目を見開くと、はにかみに似た微笑を浮かべた。
「ここまでして、寝るのは馬鹿じゃない?」
ここまでというのは、お互い裸になったのにという意味だろう。
いつものように、まばゆい光を逃れるように遮光カーテンで囲われた闇の中に潜んでいた。

「こうしている方が温かいし、眠りやすいでしょ」
「俺は赤ん坊か」
自嘲めいた言い草だが、実際、疲れていたのか、瑞人は自分よりもはるかに薄い胸に顔をうずめるようにして抱きしめてきた。
その背中に手を回し、肌を密着させるようにしてさらに体を寄せる。

「・・・拾いたかったんだ」
くぐもった声が胸をくすぐる。
「なに?」
「・・・俺だったから・・・」

語尾がとろけて瑞人は眠る。

重さを増した彼の頭を掬いあげるようにして胸に寄せると、背中に回った手に一瞬、力がこもる。
「大丈夫、拾われたのはこっちだし」
耳元でささやくと、安心したように力がほどけた。
よほど疲れていたのか、赤ん坊のように眠る7つ年上の男をもう一度抱き寄せる。

肺活量の大きさを思わせる寝息はくすぐったいが、腕の力を抜くわけにはいかない。



「今、思い出していたでしょ、野木のこと。・・・ベッドの中のこと」

はじかれたように隣を見れば、香子が睨んでいた。

そこには、一番憎んでいる男と歩いている自分に対する怒りが浮かんでいた。
なのに、離れられないのだ。
今、ほとんど触れあうほどの近さで隣り合っている俺とこの女性の間には、瑞人がいる。

俺の中の瑞人とこの女性が「野木」と呼ぶ男の間には大きな乖離があるのに、でもその二人は重なり合い、輪郭もあいまいに俺たちの間で笑っている。

「・・・ごまかす必要なんかないわよ。
私だってよく言われたもの。野木と寝た翌朝はね、同僚にからかわれた。
蕩けるような目をして頬も緩んでいるってね。
あなた、今、そんな顔している。
・・・ううん、あなたずっとそんな顔しているわよ、野木との思い出を話すときはね。
どれだけ寝たのよ、彼と」

少しだけ蓮っ葉な言い方が、今夜の彼女によく似合う。
いつの間にか、彼女の肩から力が抜けている。
ざわめく心は雑踏の中に放り出したとでも言いたそうだ。

「・・・野木は、私のことをあなたにどういっていたの?」
「今さら聞きたいの?」

彼女が前を向いたまま、こくんとうなずく。
幼い子どもが母親や父親に諭されて、少しだけすねたままうなずくように。

「・・・とても、とても大切な女性だって言っていた。
彼女だけが、俺を正気にしてくれる存在だって。
彼女がいてくれるから、自分は現実社会の中で、ごく普通の常識的な社会人として、誠実な息子として、頼りになる弟として生きていけるって。
だから、失いたくないって。
あなたのことをあまりにも大切そうに言うから、俺は?って聞いたことがある。
「そうしたら?」
「キョウキ。
結局、瑞人はゲイではなかったんじゃないかな。
俺のためにそんなふりしていたんじゃないかなと、今は思う。
そんなことだってできる男だったから、彼は」

香子が泣きそうな顔で俺を見上げた。
その目から大きな光のしずくが零れ落ちる。

ああ。
体の奥底から吐息が溢れそうになり、それを彼女に届けたくて、くちづけた。





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