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夢吐(うそつ)き

夢吐(うそつ)き&バカラ 9

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2月に入り、医療費がうなぎ上り(><)
バイト先はインフルウィルスが蔓延していますが、私は何とか逃れています。
なのに!!!
年明けからずっと体調が悪く、2月に入ったとたん、インフルには罹らなくても、めまいで1週間寝込み、口角炎、瞼の炎症、風邪などなどで病院通い。
17日には次男が過食の点・・・ん?
もとい、華燭の典を挙げるのですが、そのために体調を万全に・・・と決心しているものの、このままでは危うい…。

さて・・・、この「夢吐き&バカラ」ですが、昨年夏からぼちぼち書き綴っているものだから、ところどころつじつまが合わないところも…。
で、少しずつ書き直したり、修正したりしています。

以前も書きましたが、ホントに好き勝手に書いているので、もうしばらく気長にお付き合いくださいませ。


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「おはよ」と言うなり、紗月がぎょっと体を引いた。
デスクに体がぶつかり、手にしていた紙カップがプラスティックのふたを弾き飛ばし、コーヒーがこぼれる(つまりコーヒーカップを握りしめたということだ)。
「うわっち」
大騒ぎしてティッシュを引き抜き、手や床にこぼれたコーヒーを慌てて拭くと、「あなた、何すさまじい顔しているの」と非難の目で見上げてきた。

返事もしないでパソコンの画面と睨めっこしていると、落ち着いた紗月がイスごと体を彼女のほうへと向ける。
「ちょっと、どうしたのよ。目の下も真っ黒よ。
そりゃ、コンシーラーでもCCクリームでも無理だわ、ごまかすの。
その顔で営業回りしたら、クライアントが『殺人鬼が歩き回っている』って110番するわよ。
何があったの」

「単なる寝不足」
「・・・って、そんな顔じゃないよ。そのまま五寸釘もって頭にろうそくでも立てたら、そのまま『八つ墓村」だよ」
「横溝正史?今どき誰も知らないよ、そんな推理小説」
「失礼な奴だな。あの名作を知らないか!」
「だから、私は知っているけれど、今の若い子なんかは知らないって言ってるのよ」
「その若い子を殺しそうにでもなった?」

いきなり切りこまれて、香子はぐっと喉を詰まらせた。
「図星か・・・」
紗月の憐れむような口調に、香子はパソコンのディスプレイに視線を戻すと唇をへの字に曲げた。
「・・・話したい?」
「話したくない」
「あそ。まぁ・・・、話したくなったらランチでも奢って。
ちゃんとマイメモリーに記憶しておくから」

そう言いつつ、でも、紗月は自分のデスクには戻らなかった。
香子の横顔をうかがっている。
「・・・だから、あまりかまうなって言ったでしょう?傷つくのは香子、あなただよ?」
見透かしたような言葉に、思わず紗月を睨みつける。
「止めてよ。以前も言ったでしょ、香子の5年間を思い出したら、野木さんがゲイじゃないのはわかっている。
あなた、ホントに毎回、呆れるほどに蕩けてたもん。でも、だからと言って・・・。
これ以上、あの子に深入りしない方がいい。あなたの中の野木さんだけを大切にしたほうがいい」

「憎んでもいいのかな」
「誰を」
「野木を・・・。これだけ私に愛されていたくせに、私には篠宮恭祐のこと一言も言わなかった。
なのに篠宮恭祐は、私のことを知っていた。
たった一枚の、それも片手しか写っていない写真を頼りに探し出せるほどに」

紗月が怪訝な表情で眉を寄せる。
少なくとも、ハードな仕事の前に話す内容じゃない。
さすがに香子は口を閉じた。
紗月も話の続きを促すことなく、香子の横顔をみつめている。

同僚である前にライバルであり、盟友であり、大切な友人の紗月に哀れまれるのも憐れまれるのも、蔑まれるのもごめんだった。
瑞人がいきなり逝ってしまってから、もう充分慰めて労わってももらった。
一緒に泣いてもくれた。
これ以上、紗月に気を遣わせるのは心苦しい。
けれど、瑞人を想えば、狂おしくて身もだえしてしまう自分がいる。
この体の奥底から沸き上がり、想い出までも食い尽くしてしまおうとする感情をどうすればいいのだろう?
一人では持て余し、時に抗うことさえ放棄してしまいそうになる夜。

答えはわかっている。
それが許せない。
でも、それしかない。



夏も盛りを過ぎたというのに、まだ夜の空気は指先を溶かしそうな熱気を孕んでいた。
新しいクライアントとの方向性が何とか目途がつき、上条さんから、「早く帰れ」とオフィスを追い出された。
自分はまだ仕事するくせにとぼやきながらビルから出たら、目の前に秋沢香子が立っていた。
思わず腕時計を確認する。
針は間違いなく午後10時を回っている。

「ストーカーですか?」思わず出た言葉に、「先にアタシをストーカーしたのは、あなたでしょ。話、まだ聞き終わってない」と乾いた答えが返ってくる。
「話って?」
「野木にあなたが話したこと。
出会って3年、だっけ?3年分、まだ話してないでしょう?」

多分、俺は呆れたような目をしたに違いない。
香子の目がとがり、思わず体を引く。

「あの、ナイフとか、持ってないですよね?」
聞かずもがなのことを聞くと、さらに彼女の目が鋭くなった。
「あなたのほうが先に言ったんですよ、『目の前から消えろ、刺される前に』って」
彼女はふんと鼻を鳴らすと、視線から先に方向を変えて歩き出した。
仕方なくあとをついてゆく。

人群れの中を彼女の背中が泳いでゆく。
姿勢の良さは際立っていた。
姿勢はいいのにサマースーツの肩はゆったりと力が抜けている。
形のいい引き締まった腰が小気味よく動くのをしばらく眺めていたが、これこそストーカーじゃないかと思いなおして彼女に並ぶ。

「視力、まだ戻らないの?」
思わず眼鏡に指を添える。
癖になってしまった仕草だった。
「少しずつ。でも、視力が戻っても眼鏡をかけていたほうがいいって上条さんが。
顔が甘いから素顔じゃ頼りなく見えるんだそうです」
隣で、彼女がははんとうなずいていた。

でも、それだけじゃない。
眼鏡をするようになって、瑞人が眼鏡をほとんど外さなかった理由がやっとわかった。
これはバリアだ。
夢と現実を隔ててくれる。
もろくて薄いけれど、絶対的なお守り。

「平日の夜だってのに、どうしてこんなに人が多いわけ?」
突然、香子が悪態をついた。
脈絡も何もあったものじゃないが、そんなやり取りにも慣れてきた。
「俺にあたっても仕方ないですよ。こんな人たちがいないと、秋沢さんのお仕事だって上がったりでしょ?」
「さっさと自分の部屋に帰ればいいのに」
「秋沢さんこそ。もう10時過ぎていますよ」

彼女の喉が、ぐっと鳴ったのがわかった。
周囲の喧騒にごまかすように、彼女はすぐに言葉を絞り出した。
「・・・あなたは、どうやって夜をやり過ごすの?野木はいないのに」
夜の熱気にはあまりに不釣り合いなひび割れた声。
「・・・前も言ったでしょう。瑞人の夜は、接待とあなたのためにあった。
俺、一人の夜には慣れているから・・・」

彼女の横顔が唇をかむ。
傍らを颯爽と歩いている女性が、長い夜の重みに耐えかねて泣き狂っている姿は容易に想像できた。
今さらながらに瑞人の罪深さを想う。

俺は構わない。
瑞人と一生を共にするなど、夢幻(ゆめまぼろし)以上にあり得ない話だったのだから。
けれど、この女性(ひと)は違う。
そして、瑞人もそれを夢見ていたのだから。
断ち切られた夢は、嘘になってこの女性の心を蝕んでいる。

「・・・スーツ、似合うわね」
何とか波立つ心を抑え込んだのか、彼女が顔を上げる。
「一応社会人ですから」
「野木もスーツがよく似合っていた」
「身長もあったし、何より足が長かった」
「180センチあったのよね。大学時代だって、みんなとつるんでいた時も頭一つ上にあった。
バカ騒ぎする男たちを眺めていたら、その頭がくるりとこちらを向いて、ほんの少し肩をすくめるの。
そんな仕草も妙に似合っていた。
・・・葬儀の時にご両親やお兄さんと会ったけれど、彼は鬼っ子ね。
お兄さんとお母さんはそっくりだったけれど、野木は誰にも似ていなかった」
「それは・・・」

言いかけたとき、制服のグループが目の前をはしゃぎながら駆け抜けていった。
塾帰りなのか、パンパンに膨れ上がって重そうな学生かばんを振り回しながら、青臭いにおいを振りまきながら。

「知り合い?」
「いや・・・、でもあの制服には見覚えある。もっとも小学部の制服のほうだけれどね」

そう、あの時もこの制服に足を止めたんだった。
瑞人の腕にからめとられて、身動きできなくなったあの夜に。





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