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夢吐(うそつ)き

夢吐(うそつ)き&バカラ 5

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明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします♪

今さらですが、この話、tomが書きたいように書いておりまして、だらだらになっております。
お時間のある時の暇つぶしになさってくださいね。
アハハ(汗)

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ピンスポットに照らし出されたような劇場の裏口が開くと、いきなり上がった歓声に彼が押し戻されたのがわかった。
まだ初日。
舞台はあと二日残っているので、今日はさほど多くないはずだと油断していたのかもしれない。
実際、平日の夜だというのに300席は満席だったし、立ち見客も二重三重にはなっていたが、本音を言えば、たかがアマチュアに毛が生えた程度の小劇団だと香子もタカをくくっていた。
サイトをいくつかサーフィンして、『劇団 アンタッチャブル』がそこそこ人気のある劇団だということはわかっていたが、まさか、出待ちするほどのファンがいるとは想像外だった。

復帰公演兼引退公演と銘打ってあったけれど、実際は、ここ1年、恭祐は舞台には立っていなかった。
多分、前半は就活で、後半は事故のせいで。
それでも、彼はこの劇団の主役を張れる役者として4年を過ごしている。
劇団としては手放したくないアイドルに恩を売って、最後のご奉公として引退公演なんて派手な花火を打ち上げたのだろう。
それは成功したのだろう、多分。

恭祐は、香りにむせるほどたくさんの花束を四方八方から押し付けられ、鳴き声ともうめき声とも聞きまごう声に押しつぶされそうになり、そろそろ笑顔も売り切れ状態になったようだ。
こっちも待つのは限界、と背を向けようとした時、たくさんの頭の向こうから頭一つ飛び出た彼の視線が、こっちを射ていた。
街灯のうすぼんやりした光の中でよく見つけたなと思ったが、意外というよりは、ほっとしたような顔をしたので、この三日の間に香子が来ることを予測していたのかもしれない。

彼は最後にとびっきりの笑顔を振りまいて、手に余るほどの花束に埋もれながら深々と頭を下げた。
「今日はどうもありがとうございました。公演はあと二日あります。
どうぞ最後までお楽しみください。これからまだ打ち合わせがありますので、今日はこれで失礼いたします」
少しだけ疲れをにじませた声でそう告げると、ファンたちは不満の声を漏らしはしたが、素直に彼のそばを離れていった。
それでも、最後の最後までお互いに牽制しあう二人の女性が立ち去るまで5分を要した。

「お待たせしました」
約束したわけでもないが、香子の前に立った彼はそう言った。
生え際にすこしだけドーランが残っている。
「その花束、何とかしなさい」
そういわれるまで忘れていたかのように、彼は、あっという顔をすると、「少し待っていてください」と告げて、また劇場の中に戻っていった。

再び現れた彼は、以前も下げていたショルダーバッグを肩にかけていた。
二人を照らす光は貧しいが、相変わらず彼の顔に浮かぶ疲労の色は見て取れた。

「少し歩かない?」
有無を言わせない口調は、言い慣れたそれだ。
その証拠に、恭祐の返事など待たずにさっさと歩道を歩き始めた。

今日もダークブルーのサマースーツを着ている。
短めの上着が、少し丸みを帯びたヒップの形をきれいに見せてくれることは、昨年、瑞人に言われて初めて知った。

タイトスカートがこれほどキマる後姿も珍しいよ、秋沢ってすごいな。
彼はそういうと、さりげなく香子の腰を引き寄せたのだ。
外で彼がそんな態度を見せるのは珍しいことだった。

あの時、「愛している」と一言、告げればよかったのに。

「この間はすみませんでした」
現実に引き戻す声が頭の上から降ってくる。
「なにが?下手なナンパだったこと?『恋人が死んだような顔をしている』って不躾で無神経なことを言ったこと?
それなのに、それを言った自分のほうがすごく悲愴な顔をしていたこと?」
彼女の乾いた言葉に、恭祐が慌てて両手で顔をこすった。

「それから、野木の弟だって嘘をついたこと?
私を、この私を人目もはばからず道端で号泣させたこと?
女性の一人暮らしの部屋で、傍若無人な深い睡眠をとったこと?
なのに、お礼も言わずに黙って部屋を後にしたこと?」
「ちょっと、ちょっと待って」

恭祐の言葉に従ったわけではないが、香子はふいに口をつぐんだ。
そのまま二人とも黙って歩いてゆく。
狭苦しい商店街を抜けると、目の前にうっそうとした森が現れた。
想像以上の黒い塊に、思わず足が止まる。
恭祐も傍らで動きを止めた。
彼の顔を振り仰ぐと、同じように視線が落ちてくる。

「疲れているみたいね。大変?」
「ええ…まぁ、でも、これで最後だから。面白かったですか?」
「舞台から見えるの?客席が」
「ライトの加減で結構見えるんです。真ん中あたりに座っていたでしょ?
でも、面白くなかったですよね。退屈そうな顔をしていた」

そこまで見えるものかと眉を上げれば、恭祐は左の口角を上げた。
目じりも下がってクジラ目になる。

あてずっぽうか。
図星を指されて狼狽える香子を見たかったのかもしれないが、さほど心は波立たない。

フラットな感情を見透かしたのか、「大丈夫?」と聞かれる。
思っていた以上に敏い子なのかもしれないと、改めて彼の顔をみつめる。

「あまり…、大丈夫じゃないかもしれない。野木がいなくなってから、嬉しいとか哀しいとか、わからなくなって…。
美味しいとかまずいとかも微妙かな。
この間、泣いたのは久しぶりだった。その点は、あなたに感謝、なのかもしれない」
「そう、わかる・・・気がする」
「やっているあなたは面白いの?」
逆に質問すれば、恭祐は首をかしげた。
「・・・まぁ、おもしろいか・・・な?」
「なによ、それ」
「でも、もう終わりだから」

彼が森へと続く石段を下り始めた。
その下に広がるのは広い公園で、結構広い池の周りに様々な木々が植え込まれて森のように見えたのだ。
池には東西南北から木製の橋が渡され、池の中央で交差している。

デートスポットとしても名高く、あちらこちらがライトアップされているが、やはり影は深い。
「痴漢注意」と書かれた無粋な立て看板もある。
それでも散策路やベンチに配されている街灯の下を、べったりとくっついたカップルや家路を急ぐ人影が通り過ぎてゆく。
恭祐も池に沿った散策路を歩くかと思ったが、まっすぐ橋へと向かっている。
渡り橋にも等間隔に明かりが灯されているが、夏の宵闇は深く足元は心もとない。
その上、蚊に刺されると足を止めたのに、恭祐は気にするふうもなく渡り橋へと踏み出した。
仕方なくあとを追う。

「もう、辞めるの?役者」
「え、ああ。就職したし」
「へぇ」

恭祐の足が止まり、振り返る。
街灯の明かりを背にしているので表情はおぼろだが、香子の皮肉っぽい声音には敏感に気付いたようだ。

「嫌いなのよね、私。『いちご白書』みたいな男。
就職が決まったからひげを剃って、ロングヘアをビジネスカットにしちゃうような軟弱日和見男。
あ、違うか。就職活動するからひげを剃るのよね、実際は」
恭祐が怪訝な表情で見下ろしてくる。

この男、『いちご白書』ってニューミュージックの名作を知らないのかと少し鼻白んだが、自分だって映画の名作『いちご白書』なんか見たこともない。

やがて、恭祐は息を吐くように表情を緩めた。
香子の皮肉も当然だと自覚はあるようだ。
「いいんだ、もう。瑞人もいないし」
「彼は・・・、見に来ていたの?」
ううん、と恭祐は首を振る。遠くで魚が跳ねる音が響く。
「彼は、スポンサー?だったんだ」
「スポンサー?」
「今でこそうちの劇団、プレイガイドみたいなとこでもチケット売れるけれど、彼と出会った頃は、友人知人や親に頭下げて何とかさばくしかなかった。
それでも赤字で・・・」
「ああ、よくある話ね。・・・あなたのチケットを野木が買っていたの?」
「まぁね」
「全部?でも、私、一度も野木からチケットを買ってくれなんて言われたことは・・・」

香子が自分の中に答えを見つける前に、また恭祐は歩き出した。
夏だというのに二人以外に橋を渡る人影はなく、ライトアップされていても池の真ん中あたりはひどく暗い。
万が一足でも踏み外そうものなら、何かが潜んでいそうな水の闇の中に引き込まれてしまう。
さすがに香子は怯んだ。
けれど、恭祐は足を止めない。
まるでぽっかりと開いたブラックホールに自ら吸い込まれてゆく星のように見えて、香子は思わず叫んだ。

「なんで野木があなたのスポンサーになんかなったのよ!」
「それを話すと、長くなるよ?」
振り返って彼が言う。ひどく悲しげな声だ。
「いいわよ、私は明日は休みだもの」

闇の中から恭祐が抜け出してくる。香子の傍らに立つと欄干に腕を置いてもたれかかった。
かすかに木がきしむ。
昏く重い水面に向って、恭祐は深いため息をつくと話し出した。




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