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tomのお伽話

大好きな俳優さんにインスパイアされたお伽話を書いています

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いやぁ、寒い!!

日記

三連休、雪で始まり雪で終わり、雪に埋もれそうになった千葉でございます。
寒いっちゃなんのって、いやはや・・・。
お出かけを予定してなくてよかった(^^;)

先日の「母親の究極のわがままは、子どもが子ども時代のままでいてくれること」には、
友人たちから多くの賛同を得て、みんな大きな声では言わないけれど、そう思っているんだなとちょっと安心したのですが、
夫に告げたら、「あほか!」の一言でばっさり!
いや、わかってるって!!
バカだし、アホだし、本当に身勝手なわがままだってわかってるってば!
それでも思ってしまう母親の哀しい性ねぇって・・・。

まぁ、気を取り直しまして。

現在、「愛を刻む夜に」を何とか続けておりますが、「公安」なんて言葉、まさか出てくるとはと自分でもびっくり。
もっとも、マジにホントに戦場スナイパーしていたら、日本に帰国できるんかなと以前、調べたことあったな。
まぁ、そこはあまり追求しないコンセプトで始めちゃったお話。

でも、ワタクシ、スナイパーの出てくる小説が好きでありまして、最近も、「魔弾」(松浪和夫さん著)がお気に入り。
機動隊の若きスナイパー清水君がいいのよ、とても。
結末は悲劇だけれど、清水君はそれでも一途に尊敬する先輩の後を追いかけて茨の道を歩いて行く。
完全におばちゃん趣味ですが。
かなり以前は鳴海章さんなんかも読んでおりました。

もう一つ、垣根涼介さんの「室町無頼」も面白かった!
応仁の乱前夜、骨皮道灌、蓮田兵衛という実在の人物に、才蔵という若い槍の使い手を配しての疾風怒濤のごとくの時代小説。
登場人物みんなが魅力的で、特に私は飄々と生きて土一揆の首謀者となり、最後にはさらし首になった兵衛がお気に入りです(お気に入りが多いけれど)。
垣根涼介さんはリストラ請負人シリーズ(「君たちに明日はない」ほか)も「サウダージ」も面白かったけれど、これでまた好きなお話が増えました。

現在は、「警視庁公安Jシリーズ」を読んでいます。
ん~~~~~?と思いつつ、読んでおりますが。
これは完全にジャケ買いでしたね。
何しろ、文庫本はダブルカバーで「シティハンター」なんだもん。
買っちまったよ!!
責任取っとくれ、北条司先生!!

以上、雪に阻まれ、せっかくの三連休を座敷豚(これも死語じゃねぇか?)に徹していたtomでありました♪

そうだ、思い出した!
今日、CSで、「植物図鑑」という映画を観ました。
原作は有川浩さん。
高畑充希さんと岩田剛典さん主演の映画。
有川さんの小説は、自衛隊三部作も好きだけれど、この「植物図鑑」が一番好きかも!!!
で、映画化されたとき、映画館に見に行くつもりが延び延びになり、結局、今頃テレビで(^^;)
でも、まぁ、映画館まで行かなくてよかった、かな?
さらさらとしていて、かわいい恋物語でしたね。
小説を読んだ時の、胸キュンキュン涙ぽろりんまではなくて、ええ、まぁ、いいか。このくらいで。

おばちゃんはうるさいのですよ、好きな小説に関しては!!




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愛を刻む夜に 第二部【第7話】

愛を刻む夜に

【第7話】


ドアを背後に視線を上げると、細い路地の真ん中にスリムな影が立っていた。
路地を作るビルを背中に、こちらに半身を見せている。
誰なのかはすぐにわかった。
手にしているスマートフォンの光で、顔の輪郭がほのかに浮かび上がる。
まるでその光に導かれるように歩み寄った。
「聞いた通りだ」
「気づいていたの?」
「田口がポケットの中のスマホを気にしていた。誰でもわかる」

薄闇の中で苦笑しながら、静流がスマートフォンをトートバッグに落した。
その前を通り過ぎる。
体温が伝わりそうなほど狭い路地を。
「待って」
なのに、腕をつかんではくれない。
立ち止まるつもりはなかったのに、足が止まってしまった。

「・・・私の過去もロクでもないけれど、あなたも似たようなものだった。
たった4カ月足らずの恋のために、あなた、自衛隊に入って、外人部隊にまで入隊して戦場を駆け回ったの?」

そうだった。
振り返ってみれば、たった4カ月。
否、一緒に過ごした時間は遥かに短い。
淡い想い出しかないのに、濃密な闇が纏いついてくる。

「・・・あの人が、あなたを今も眠らせてくれないの?」
過酷な訓練や練習で神経がとがり、眠れない夜は彼女の面影が眠らせてくれた。
裏切られたと思った後は、口の中まで乾いた砂が入り込む砂嵐の中、息をすれば肺まで焼けつくような灼熱の光の下、空気さえたっぷりと水を含むジャングルの葉陰で、暗闇を這うようにして彼女を憎んだ。
狙撃の時はレクティルのクロスを彼女の姿に重ね、一つひとつ、一人ひとり、倒すたびに彼女への想いを撃ち砕き、底なしの沼に引きずりこまれるようにして眠った。

なのに、誰かと一緒では眠れなかった。
貪るように求め続けた女たちも、そして、今、後ろに立っている静流でも。

その静流がせせら笑うように息を吐いた。
「皮肉なものね。私も今、あの人のせいで眠れない」
「・・・何とかする」
「・・・なにを?話してどうにかなる問題じゃない。
今のあなたがあの人の決断を翻せるとでも?
昔のよしみで、ショッピングモールは諦めてくれと頼むつもり?
あなた、今の自分とあの女性の立ち位置、わかっている?
小学生でもそんな話、鼻で笑うわよ」

言葉は辛辣だが、苦渋が滲む。
静流も桂も、今の状況そのままだ。
一方通行の薄暗がりの中で立ちすくみ、歩みだせない。

「少し待っていてくれ」
振り切るように歩き出すと、「・・・今夜、一緒にいてあげようか?」という声が追いかけてくる。
恩着せがましい言葉とは裏腹に心を射るような切ない響きがあって、桂は立ち止る。
けれど、静流には見えない苦笑が口元に浮かんだ。
「止めたほうがいい」
「・・・なぜ?」
「俺にはまだ行確がついている。君にも迷惑がかかる」
「こうかく・・・って?」
「公安がついている」
「こうあん・・・え?」

驚愕の声を背中に聞きながら、桂は細長い空を見上げた。
静流が驚くのも無理はない。
実際、自分も驚いたのだから。
帰国直後はいざ知らず、8年もたった今、ましてや自分はハンデを負い、もはやアサルトライフルなど構えることは不可能だ。
にもかかわらず、警視庁公安部外事課の行動確認がまだついているという。
桂に狙撃された要人達の意を汲んだ者による報復に誰かが巻き添えになることを未然に防ごうというのか、それとも、桂が日本でまた誰かを狙うとでも思っているのか。

自分にまだ行動確認がついていると知らされたのは、セヨンの別荘から最寄り駅まで送ってもらった車の中だった。


17年前、自分たちを引き裂いた嘘をついた人間が誰なのか同時に悟った後、セヨンは、ふいに姿勢を正した。
青ざめた頬を引きつらせながらも、一歩、二歩と桂から離れた。
桂に距離を置いて、改めて強い視線を向けた。

わななく唇で何かを告げようとしたが、言葉にならず、やがて、ぎゅっと唇を引き結ぶと心持あごを上げた。

同時にドアがノックもなく開く。
先ほどの若い男が「部長、次のお時間が」と慇懃に告げた。
「この方を駅までお送りして」
深くうなずく男の横を、セヨンは駆け抜けるようにして去っていった。
あとに残った桂に向けて、男はまた慇懃に「仲森桂様、こちらへ」と言った。


「俺のことを調べたのか」
来た時とは違う道を、黒塗りの車は走っていた。
わざと遠回りをしているのだと気づき、桂は口を開いた。
ルームミラーの中で男がうなずく。
「お嬢様が、・・・部長があなたの古い写真を手帳に挟み込んでいる。
手帳は毎年更新するのに、その写真だけはいつもカバーの中に挟み込まれる。
何かの競技会の写真、多分雑誌の切り抜きだと思います。
あなたが白いユニフォームを着てライフルを構えているので」

彼はそれが気になって密かに調べたのだという。
たった1枚のグラビア写真からよくたどり着いたものだと思うが、桂が自衛隊体育学校所属でオリンピック候補選手だと分かった時点で、あとはするすると判明したのだという。
自衛隊退所後、フランスへ渡り、外国人部隊へ。
2年勤めた後、その腕を買われて国際的なセキュリティ会社に入社し、世界各地の紛争地帯や戦場を渡り歩いたこと。
本来ならば極力人目につくことを避ける狙撃手にもかかわらず、「スナイパーK」の名は高まり、引退を考えていた矢先、敵方に脅迫された娼婦に撃たれ、九死に一生を得たこと。

「まさか帰国して翻訳者になっているとは意外でした。
でも、賢明な選択でしたね。
いまだあなたには公安がついている。
そ知らぬ顔をして就職するなど、土台無理な話だった」

「公安」の言葉に、桂が目をむいたのをミラーの中に認め、男は薄い笑みを唇の端にためた。
「おめでたいですね。気づかなかったと?」

いや、帰国直後には分っていた。
当然のことだと自覚もあった。

世界の戦場で名をはせたスナイパーK。
狙撃した要人の数は片手では足りない。
瀕死の重傷を負い、片目を喪ったとはいえ、帰国してきたのだ。
日本の警視庁公安課が桂を行動確認対象にするのは火を見るよりも明らかだった。

実際、絡みついてくる粘っこい視線やどこに行くにも付きまとう胡散臭い影に神経をすり減らした時期もあった。
しかし、それも警視庁のおひざ元にいる間だけだと思っていた。
実際、あの渓谷の町で過ごした5年、暗闇につながれるような気配は感じなかったというのに。

「ホントに気付いていなかったとは驚きだ。
あなた、本当に伝説のスナイパーだったのですか?
さすがに特別対象からは外されたと聞きましたが、あなたの言動を綴ったファイルは、今も厚くなり続けているというのに」
「それを誰から聞いた?」
男が鼻で笑う。
「それはお知りにならない方がよろしいかと。
あなたには一生遊んで暮らしても使いきれないほどのお金がある。
余計なことに首を突っ込まず、このまま静かに翻訳者『野田雄介』として生きて行けばいい」

吐き捨てるように彼が言った時、車は駅のロータリーに回り込んでいた。
雑多な車列の中に何の苦も無く車を止めると、「ここで失礼させていただきます。お気をつけて」と、ミラーの中の彼はまた慇懃無礼に戻る。

車外に出てドアを閉じる刹那、「君は、セヨンの秘書なのか?」と、フロントガラスを睨んでいた男に声をかける。
挑発されたわけでもないのに、声に棘が混じるのを止められない。
またミラーの中で彼が唇の端を上げた。
それから、覗き込んでくる桂に向けて冷笑的な顔を上げた。

「大奥様、会長の奥様と同郷だったよしみで私の母は会長宅の使用人として働いていました。
会長のお宅には若い社員がよく出入りしていたのですが、その一人と母は恋仲になった。
ところが、その男は会社のお金を私的に流用してしまった。
私が大人になって調べてみたところ、情けないほどささやかな金額でしたが、会長は許さなかった。
男が解雇になった後、器の小さな男は決して幸せにはしてくれないと大奥様に説得された母は、男の後を追わなかった。
けれど、母は身ごもっていることに気がついた。
それが私です。
母は私を育てながら会長に仕え、大奥様と会長も私の存在を認め、教育をつけてくれた。
私は、お嬢様の陰として生きることを運命づけられた」

それだけを告げると、もういいかとでも問うように、横柄にあごをやや上げた。
桂は返事をする代わりにドアから離れた。
そのテールランプの点滅が桂の迂闊さを責めているようで、いや、実際、あの男が嘲笑したのかもしれないと思いながら、桂は見送った。


「だから、何?」
「え?」
ふいに放たれた静流の声に、桂は現実に引き戻された。
「公安がついているから、何?
あなた、つかまるの?私もあなたの関係者として引っ張られるとか?
帰国してから何年経つの?
一度でも狙われた?一度でも誰かを狙った?」
「そんな単純な話じゃない。俺は一生、・・・多分、一生、行確対象になる。
君にも迷惑がかかる」
「どんな迷惑?」
「この先、結婚や就職や・・・」

静流が声をたてて笑った。
「あの人との結婚話をつぶしてくれるなら歓迎ね。
親や兄夫婦、特に美弥子のとんがった鼻がつぶれるなら、逆に感謝するわ」
皮肉な声音に、『家族みんな、頭ではわかっているのに最後の望みの綱みたいに寄ってたかって静流に縋り付いている。静流も静流で、淡々としている。家族に対して諦めたって感じかねぇ』という利一の言葉が蘇った。

「私が結婚するかもしれないと聞いて、少しは後悔、した?」
今度は桂が苦笑する番だった。
「なにを」
「・・・心当たりがないのなら、いい」

落胆を隠しもせずに、今度は静流が桂を追い越して明るい通りへと出ようとした。
その手をつかんで引き寄せる。
大きく包み込むようにして抱き寄せると、一瞬、抗うように力が入ったが、すぐに両手が背中に回された。


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親のわがまま

日記

今日は節分。
とはいえ、特に何もしませんでしたが・・・。
明日は立春。暦の上では春です。

インフルエンザ、皆さん大丈夫ですか?

今日は夫と「七つの会議」(池井戸潤原作)を観てきました
狂言、歌舞伎、落語、お笑い芸人・・・、本職が映画俳優さんだけではなく、様々な役者さんのオンパレード♪
なんと豪華なキャスト陣。
私はもちろんミッチー狙いでしたが・・・。
原作を読んでいるので、よくまとめたなぁって感じです。
でも現役サラリーマンの夫にしてみれば、身につまされるようなエピソードの連続だったようで、
登場人物すべての言い分が理解できると言っておりました。


原作→小説という連想ゲームで思い出したニュースが一つ。
先日、大阪の「天牛堺書店」が破産による閉店という記事をネットニュースで見ました。
ショックだったし、とても悲しい・・・。
堺市に本店があり、大阪府下(主に南部)に12店舗あったそうで、私はそのうち半分以上で本を購入したことがあります。
天牛堺書店は、古本屋から発展した書店で、どの店舗も店の前に平台があってそこに古本がぎっしり並び、店内には新刊が並ぶという形態をとっていました。
特に泉北高速線の各駅(と言っても片手で足りる)の高架下に書店はあり、店舗は小さいけれど便利でした。
結構面白い古本が100円で並んでいたりして大人買いもできたし、絶版になっている本を見つけて狂喜乱舞したり、私自身が本を持ち込んで買取してもらったこともあります。
大坂の泉北ニュータウンに住んでいた24年ほどの間、古本も新刊もこの店で何百冊(大げさではなく)も購入しました。
そのほとんどはもう手元にはないけれど、どれほどお世話になったことか。
通販や電子書籍に押されて売り上げが落ち、破産を余儀なくされたと。
・・・大阪にはよく帰っているけれど、もうあの店で本を買うことはできないのだと思うと寂しいです。
私の人生の思い出が、また一つ消えた気分・・・。


さて、人生の思い出からまた一つ連想ゲーム。
一昨日は娘の誕生日。
大きくなったものです。

でも、最近、つくづく思う。
先日、「平成の大ヒット曲」なんて特集で、SPEEDの「ホワイトラブ}を聞いたとき、
そういえば昔、帰省のドライブ中、車の後部座席に3人が並んで座り、大声で歌いまくっていたなと。
仕事と家事と育児でくたくただった私。
お金もなくて、欲しいものも我慢の連続で、子どもたちにも不自由な思いをさせたなと思い出しつつ、
でも、あのころが一番、なんというか、愛しいというか、楽しかった(はずはないのだけれど)というか。

そう、親の究極の願いは、子どもは「子ども時代」のままいてほしい・・・ではないかと。

今、我が家の三人の子どもたちはそれぞれが大人になり、上二人はよき伴侶にも恵まれてそれぞれ家庭も持っている。
無事に成長して、大人になって、ごくごく普通の社会人として生きていることは本当に喜ぶべきことで、これ以上の贅沢はないと言っても過言ではないと思う。

でも、時々、子どもたちの幼い頃を思い出している私。
まだ「私だけ」の子どもだったころのことを懐かしく切なく想う。

親はわがままだ。
本当に、本当に、わがまま、なのです。


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寒い午後の徒然であります・・・

日記

今日はお休みです。
んで、いつものごとくテレビの前に座り、CS見ております。
今は、映画「ロード・オブ・ザ・リング」~王の帰還~。つまり、三部作の最後ですね。
なんと2003年製作というから、もう16年もたっているわけです。
当時は、レゴラスも好きだったけれど、とにかくアラゴルンのファンで、このヴィゴ・モーテンセン、だったかな?
彼がのちにほかの映画の主演でアカデミー賞の主演男優賞候補になったときは喜んだものでした。
しかし、何度見てもこの「王の帰還」の主役は、サムだよな。
無欲でご主人(フロド)に忠実で献身的で、でも指輪のせいで欲に憑りつかれそうになるフロドを諭して励まして、見事なエンディングまで引っ張っていくんだもん。

しかし、16年。
早いもんだ。
早すぎる!
以前、「チコちゃんに叱られる!」で、大人になるとどうして時間が経つのが早いのかという質問があって、
その答えは「大人になると感動することが少なくなるから」だったかな?
なんかそんなニュアンスのことだったと思うけれど、でもさ、大人になっても感動はいっぱいすると思うのだけれど…。
私は毎日感動してるぞ!!!
昨日はね、え~と、え~と・・・。

でも、まごりん(1才3カ月)の毎日を動画で見ていると、今の彼の毎日は発見と驚きに満ち満ちているな、確かに。
なんにでも手を出し、覗き込み、触って確かめて、いろんな事どんどん吸収して…。
息子の同じ時期のこと、もう思い出せないのだけれど、孫の成長を見ていると、彼を通して子育てをトレースしている気分に。
孫を授けてくれてありがとうという気分です、はい。


先日、夫がもう少し長いカシミア100%のマフラーがほしいと言い出しました。
夫の誕生日は11月の末なので、飲み屋のお姉さま方や娘からのプレゼントはマフラーや手袋がデフォルトというかスタンダードというか。
んでもって、現在使っているカシミアのマフラーも何年か前の娘のプレゼント。
でも、短いから巻きにくいんだって!
探しましたよ、ええ、あっちこっち。
デパートやらブランドショップやらアウトレットやら。
でも、もうない。一番品ぞろえの豊かなクリスマスシーズンなんて遥か昔だもん。
やっとバーゲン中の某セレクトショップで見つけて購入。長さ170センチ。
んで、その帰り、ヒートテックのタイツも頼まれていたなとユニクロに寄ったら、目の前にブラ~ンとぶら下がっていました、カシミア100%のマフラー。
なんと3000円!!!

凹んだわ、マジに。

そしてまた、仕事用の革の手袋を地下鉄に落したとのたまうので(これもまた娘からのプレゼント)、またまた探しまくったわけです。
んで、結局見つからず、最終的にはネットで注文。
季節は冬真っ最中だけれど、ほとんどがバーゲンで、残っているのはやっぱり少々難ありで…。

頼むわ、今度はもう少しシーズン真っ盛りに欲しがってください。


このお正月は中学校の同窓会に行きましたが、高校1年生の時のクラスがいまだに仲良くて、二月に一度は地元で飲み会を開催している模様。
クラス40人のうち、地元に残っているのが半数以上(何しろ四国のド田舎、長男は跡取りだから地元に残るのが当然、女の子も地元でお嫁に行くのが親孝行)、飲み会には常に10人以上は参加しているようです(私も2年に一度くらいは・・・)。
んで、ライングループがあって私も参加しているのだけれど、先日「2月に次の飲み会しよう」と幹事からラインが。
でも残念ながら2月はみんな何かと忙しいみたいで、「じゃぁ3月に」という話に。
ここからが面白いなぁと思ったのだけれど、
公務員の人たち「3月は選挙や税金の申告があるからちょっと無理」
幹事「ではちょっと先になるけれど、4月にするか?」
教師(校長先生ほか)「4月の末まではばたばたしている」
農家の主たち「4月の20日前後までは田植えがあるから、それ以降にしてほしい」
ン十年前は同じ制服を着て同じ教科書を広げ、同じ方向を向いていた私たち。
このトシになると、みんなそれぞれの肩書や立場があって、忙しい理由も様々だなぁと眺めていました。
結局、飲み会は4月末になったようです。
私はさすがに今回は参加できませんが・・・。

以上、寒い寒い千葉でありました。
職場でもインフル真っ盛り!
マスク必携、うがいと手洗い激励行!うつりませんように!!

皆さんもくれぐれもご用心!!

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愛を刻む夜に 第二部【第6話】

愛を刻む夜に

【第6話】

若い恋は、人目を避けるように、少しの懸念を孕みながらも深まっていった。
しかし、二月後、叔父はセヨンの様子から桂との仲を感じ取り、烈火のごとく怒った。
義兄から預かった大切な姪だった。
桂は店への出入りを禁じられ、叔父はセヨンが大学で過ごす時間以外は、自分の店でアルバイトをさせた。
自宅では妻が、店では自分が厳重に監視したつもりでいた。

けれど、若い二人は叔父の目を盗み、キャンパスやアパートで密かに会い続けていた。
その二人を叔父やほかの監視の目から守ってくれたのは、なんと田口だった。
彼は、店長から絶大な信頼を受けていた。
自分が一緒だからとセヨンを誘い出し、桂のアパートに連れてきてくれた。
たった半時間でもセヨンと桂が二人だけで過ごすことができるように、シフトを操作することも厭わなかった。

当時田口がいてくれたからこそ、桂とセヨンは寄り添うことができたのだ。

「・・・それにしても、かわいらしかったよなぁ、お前たち。
結局、セヨンとはセックスしてないんだろ?
やりたい盛りの男が、ただ黙ってみていただけだなんて、気持ち悪いくらいだ。
それとも何か、お姫様を守るナイト気取りでストイックな自分に酔っていたのか?
アホくさ」

肩をそびやかして嘲笑する田口を暗い視界に収めながら、桂はため息をつくようにしてマッカランを喉に流し込んだ。
喉を落ちてゆく冷たい液体が、心の奥底でくすぶっている憎しみや絶望を少しだけ癒す。

それ以前の恋人たちとは若さの赴くまま幾度も抱き合ったというのに、セヨンに対しては唇に触れるだけが精いっぱいだった。
おののくような視線を絡み合わせ、そっと抱き寄せるだけで胸は高鳴った。
ガラス細工のように大切にしたいと思っていた。
田口が便宜を図ってくれた二人だけの時間はいつも陽炎のように儚くて、結局、肩を抱き寄せ、ついばむようなキスをして、言葉を交わすだけで終わってしまった。
お互いにお互いの中に燃える熱い想いには触れていたのに、その体に触れることを恐れた。
純情ぶるわけではなかったのに、どうしてそれ以上に踏み込めなかったのか、今ではその理由さえ定かではない。

だからこそ、強く深く想いいだいてしまったのか。
滑稽なほど一途だったのだという自嘲は、マッカランと一緒に飲み下す。

その年末、今度はセヨンの母親が倒れたという知らせが入った。
急遽、セヨンは叔父とともに帰国した。
半月後、叔父は一人で戻ってきた。
セヨンは母親の看病のため韓国に残ったのだ。
二人の遠距離恋愛が始まった。

セヨンが韓国でも有名な企業の一人娘だと知ったのは、その頃だった。
焼肉店のオーナーもセヨンの父親だった。
店長はセヨンの父親の妹の夫で、店を任されていたに過ぎない。
叔父は頭の上がらない義兄に、セヨンと桂のことを控えめに報告したようだが、一人娘を溺愛していた父親の逆鱗に触れたのは火を見るよりも明らかだった。

セヨンとは電話もつながらず、メールは拒否され、手紙も返送されてきた。
頼みの綱は田口だった。
一時期は、桂をセヨンに紹介したとして危うい立場に置かれたようだが、結局店長は田口を許した。
田口の存在が店の売り上げを左右するほどに大きくなっていたからだった。

田口が店長から聞きだしたところによると、セヨンは母親の看病に明け暮れているという。
病状は思わしくなく、母親はセヨンを日本に行かせたことを深く後悔し、そのストレスがさらに病状を悪化させている状況だった。
一人娘のセヨンはそんな母親の手前、桂に連絡を取りづらく、最近では父親が携帯電話を管理しているという。
手紙は自宅にいるお手伝いさんがひそかに父親に渡し、返送手続きを取っていた。

「さっさと別れたらよかったんだ、あの時に。たかだか21やそこらのおままごとじゃないか。
お前には掃いて捨てるほど女が寄ってきていたんだから、セヨンなんか捨てちまえばよかったんだよ。
なのに、お前たちは正攻法で行こうとした。若さゆえの暴走に近いよ、あれは。
バカだとしか言えない。俺だってとばっちりを食らったしな」


海が隔て、人が壁になる恋は、桂の想いをさらに燃え上がらせ、深めた。
恋しさのあまり、桂は春休み、田口にセヨンへの伝言を頼んで飛行機に乗った。
田口はもちろん桂を止めた。無謀だと自分でもわかっていた。
初めての国で頼りになるのはガイドブックといくつかのサイトの記事だけだった。

田口に伝言を頼んだ待ち合わせの場所で2時間待っても、セヨンは来なかった。
予想していたとはいえ、暗澹たる気持ちで桂は彼女の実家を探した。
雀時、小高い丘の上にある閑静な住宅街の一角にやっとたどり着いた。
あたりを睥睨するような高い塀に囲まれた邸宅。
桂は圧倒され、自分が委縮するのを意識せざるを得なかった。
セヨンが生まれ育った環境を改めて知った。

怖気づく自分を叱咤しながらオートロックのボタンを押し、来訪を告げる。
すげなく追い返されることも覚悟していたのに、桂はお手伝いらしい中年の女性に重厚な家具に囲まれた応接間に案内された。
ジーンズにジャケット姿の自分がひどく卑小で、みすぼらしい存在であると痛感する。
しなやかな革張りのソファに座ることもできず、窓辺に立って庭木が迷路のように配された中庭をぼんやりと眺めていると、いきなりドアが開いた。

「ケイ!」
最初に飛び込んできたのは、菫色のワンピースを着たセヨンだった。
二月の間に痩せた頬に涙が零れ落ちる。
「セヨン!」
駆け寄って抱き寄せようとした桂の足を止めたのは、セヨンの腕をつかんで引き戻した手だった。
その手の持ち主は、セヨンを自分の背後に引っ張り込むと、桂の前に大きく立ちはだかった。

仕立てのいいスーツの上からもわかるほどに厚い胸。
頬骨が際立つ顔、固く結ばれた大きめの口、鷲鼻、セヨンとは似ても似つかないいかつい印象なのに、どこかセヨンの面影がある。
「아빠!」
彼女の悲鳴で父親だと分かった。

立ちすくんだ桂に、濁流のような韓国語が浴びせられる。
言葉の意味は漠然としているものの罵詈雑言だと理解できたのは、その男性の体全体から吹き上げてくる憎悪だった。
反論しようにも桂のボキャブラリーでは太刀打ちできない。

父親の背後に抑え込まれたセヨンが泣いている。
父親を止めようと足掻いているが、鍛え上げた肉体を持つ大男はびくともしないで、ひたすらに桂を罵倒している。
一代で大企業社長にのし上がった男の前では、21才はただの子どもに過ぎなかった。
口汚く怒鳴り散らしたあげく、最後にセヨンの父親はこう言い放った。

「兵役もない国の腰抜けにセヨンをやれるか!!」

明瞭な日本語だった。
あとで知ったが、セヨンの父親も日本留学の経験があったという。

散々ののしられた後、桂はスーツ姿の若い男たちに門の外に放り出された。
「セヨン、必ず迎えに来る!!約束する!」
そう叫んで道路に倒れた桂に投げつけられたリュックには、セヨンに渡すはずのバースディプレゼントのペンダントが入っていた。


「帰国したお前にはみんなびっくり仰天だった。
内定していた外資系の商社を断って、いきなり自衛隊に願書を出したんだもんな。
形相もまるで変わっていた。
いつも穏やかで『微笑の王子サマ』なんてささやかれていたのに、にこりともしない男になっていた。
8月になって、お前が合格したと聞いた時は、さすがの俺も驚いたよ。
それほどにセヨンへの愛が強いのかと、そら恐ろしくなるほどだった」

田口は、まるで苦い薬でも飲むように、氷しか残っていないグラスを傾ける。
桂もそれを見習った。

若かったのだ。
今は痛いほどにそう思う。

「駆け落ちでもすりゃよかったんだよ。そんなに好きだったのなら。
さっさと二人で手に手を取り合って、アメリカだのヨーロッパだの、すぐには親の手の届かないところへ行って子どもでも作っちまえばよかったんだ。
なのによぉ、お前は父親に罵倒されて頭に血が上って、期待されていた未来を捨てて自衛隊なんかに入りやがった。
純情だというか、滑稽だというか、そばで見ていて、あっけにとられちまったよ、俺」

駆け落ちなど現実的ではないほどに子どもだったのだ。
軍隊のない日本でも自衛隊はある。
だから、あとさき考える余裕もなく入隊した。
自衛隊で鍛えられ、セヨンの父親に「腰抜けではない」ことを証明したかった。
胸を張ってセヨンを迎えに行くつもりでいた。

試験勉強などしていなかったから、自分をとことん追い込むしかなかった。
バイトはやめた。
遊びに誘ってくる友人達も無視した。
田口だけは黙って見守ってくれていると信じていた。

だから、田口には、しばらくセヨンとは連絡を取らないと誓った。
それがセヨンへの愛の証だと田口に告げたつもりだった。
ただ、彼女に渡すはずだったペンダントは田口に託し、いつか渡してほしいと願った。
『必ず迎えに行く。だから待っていてほしい』という手紙とともに。
「わかった、何とかする」
表情こそ難しかったが、田口はそう請け負ってくれた。だから信じた。
信じて、それを励みに生きた。
一次試験、二次試験と何とか突破し、合格通知を知った時、桂は安堵のあまり座り込んだほどだった。

「・・・お前はあのペンダントを渡してくれた。
そして、彼女の返事も教えてくれた。『待っている』と。
あれは合格が決まって、やっと両親を説得できた秋の頃だった」
「哀れだったからだよ、哀れ過ぎたんだよ、お前達」

吐き捨てるように言われて、桂は薄く笑った。

それが田口の良心か。

否。
いたぶっていたのかもしれない。
それがさらに二人の想いを深めたのだ。皮肉なことに。

結局、桂は自衛隊に入隊し、期せずして射撃の腕を見込まれて体育学校に放り込まれた。
最初は戸惑ったが、オリンピック選手として報道されれば父親の目にも留まり、よりセヨンに近づけると信じた。
厳しい訓練に耐え、ひたすらに撃ち続けた。
眠れない夜は硬いベッドの上でセヨンの笑顔を想った。
彼女が自分を待っている、それだけが桂の支えであり、モチベーションを支えるよすがだった。

なのに、3年目、田口から電話がかかってきた。

「すまない、仲森。黙って聞いてくれ。
今日、偶然あの店長にあったんだ。その時、言っていた。
彼女、父親の会社の幹部と結婚した。・・・お前を待ちくたびれたのかもしれない。
母親も亡くなって気落ちした父親の希望だったそうだ。
彼女を責めるな。あの国じゃ、親の命令に逆らうのは男でも難しい。
ましてや彼女は一人娘だ、多くの社員の生活も背負っている。
もう身ごもっているとかで、うちうちの披露宴が終わったところだそうだ。
店長、その結婚式のために久しぶりに地元に帰っていたと言っていた」

隊内宿舎での集団生活で、桂の自由は束縛されたままだった。
異例の抜擢でオリンピック強化選手となり、演習と訓練の毎日は、彼の肉体だけでなく精神状態も追い込んでいた。

間もなく、桂は練習中のケガで強化選手から降ろされ、そのまま除隊した。
そのあとの話は言わずもがな、だ。


「なぜ、嘘をついた」
「おお、やっと最初の話の戻ったな。やっぱり長かったな、ここにたどり着くまで。
俺はさ、お前があんな嘘にころッと騙されるとは思っていなかった。
自衛隊を受けると聞いた時よりもびっくりしたね、辞めたってきいて。
そのうえ、行方不明になっちまった。
一時は事実を確かめるために韓国に行ったのかと思ったよ。
嘘がばれて、俺、殺されるかもしれないって、ビビりまくった。
サイトででも調べれば、あの大企業の娘が結婚したかどうかなんて、すぐにわかるはずだろ?
でも、お前はそうはしなかった。
あっさりと諦めて、姿を消しちまったんだからなぁ、相変わらずお人よしだ。
そのお前がズタボロになって戻ってきたとき、俺、実は安心した。
これで殺されなくて済むってな。
まさか、スナイパーだったなんて思いもよらなかったからな」

おどける田口の戯言を聞き流し、桂はもう一度言った。
「なぜだ」
「カネ、もらったんだよ」
「カネ?」
「・・・セヨンはお前を待ち続けていた。
お前の名前を偶然、スポーツ雑誌で見つけたらしい。
どっかの大会の記事だろ。あの国じゃ、ライフル競技は盛んだからな。
それでお前の活躍を知った。知って、泣いて喜んでいたらしい。
お前のことも日本のことも口にしなくなっていたから、もうとっくに忘れていたと思っていたのに、けなげに待ち続けるセヨンに親父は驚愕した。
それで慌てて俺に連絡してきた。
当時、俺は金に困っていたから、すぐにその話に飛びついた」
「いくらだった?」
「・・・100万」

ふいに笑いだしたくなった。

そうか、この17年間はたった100万円か。
その同額を、今、彼の前にたたきつけたら、どんな顔をするだろう。
狙撃手として人を撃ってきた。
その代償として口座には何倍もの残高がある。
100万。
そうか、たった100万か。

黙り込んだ桂をちらりと見て、田口はアルコールに濡れる唇をちろりと舐めた。
桂の沈黙をどう受け取ったのか、自嘲の笑みが片頬に浮かぶ。

「まぁ、その一回きりってわけじゃなかったから」
「監視料・・か」
「ばれてたか。時給アップを条件に、あの夏休みの終わりから店長に頼まれていた。
彼はね、さすが大人だよ。
下手に反対してさらに燃え上がられたら困る。
はっきりいやぁ、男女の仲になられて駆け落ちでもされたらセヨンの父に顔向けできない。
だから鎖を緩めにして、俺に見張らせていたんだ。
まぁ、セヨンも叔父の手前、お前とやって帰ってそ知らぬ顔ができるほどすれちゃいなかったからな、かわいらしいもんだったぜ、お前たち。
今じゃ、中坊だってヤることヤるってのによ。
でも、さすがにそろそろヤバいってことで、慌てて国に戻したんだ」
「俺がセヨンに会いに行くことも彼の親に報告していた。セヨンには告げずに。
まだ夕方だった。多忙な父親が都合よく在宅できる時間じゃない」

田口が否定も肯定もしないで肩をすくめる。
またスマートフォンが落ちそうになって、田口はポケットからそれを取り出した。
桂は、ゆっくりとスツールから滑り降りて背を向けた。

「俺は以前、『俺を恨んでいるか』と聞いたことがある」
カウンターに向いたまま、田口はスマートフォンを弄んでいた。
「お前は不思議そうな顔をして、『お前には感謝している』と答えた。
そりゃそうだ、帰国して以来、お前は俺に依存しっぱなしだ。
でも、今は?今は何と答える」
桂は答えない。
答えようがない。

「よう、仲森よぉ・・・」
振り返った田口は、ぎょっとフリーズした。

ペンダントライトの薄明りの中に、ライフルを構える桂が浮かび上がる。
銃身が鈍く光り、見えないはずの右目が田口を鋭く見据えている。
田口は恐怖で目を見開き、自分の意志とは関係なく体が大きく震えだした。
「な、なかも・・・」

冷徹な表情で、桂がスローモーションのように引き金を引く。

同時に大きな音が響き、田口はぎゃあっと声を上げた。

しかし、田口は生きていた。
恐る恐る目を開けた田口の前に、桂がライフルを構えたポーズのまま立っていた。
大きな音は銃声ではなく、自分がスマートフォンを落とした音だった。

ライフルなどどこにもない。
田口は妄想の中で撃たれ、ズボンを濡らしてそこで立ちすくんでいた。

桂はゆっくりと両手を下ろすと、鼻水と涙を同時に垂れ流している田口を残して、空しく踵を返した。
恨みも憎しみも持て余すほどの重さで桂の中にある。
それを持ち歩く気力が自分に残っているのかどうか、桂には自信がなかった。



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愛を刻む夜に 第二部【第5話】

愛を刻む夜に

【第5話】


そのバーを訪れるのは久しぶりだった。

ビルとビルの狭間、人が一人やっと通れるような小路をビルの幅だけ辿った先にある小さな木製のドア。
再開発が繰り返されてきたエリアにもかかわらず、なぜだかそのバーだけは取り壊されず、移転することもかなわず、そのまま取り残されてきたらしい。
もっともそんなエピソードが好事家たちに好まれ、常連客で十分経営は成り立っているらしい。

わざと照明を絞っているのかと訝ってしまうほど薄暗い中でノブを探し、軽く押す。
店の中はL字型のカウンターだけ。
スツールと同じ数のダウンライトが照らす店内は、まるで穴倉だ。
カウンターの向こうに立っているバーマンはいつも真っ白い布でグラスを磨いているが、暗闇の中で白い影が妖しくうごめているようにしか見えない。

桂は足元に注意を払いながらカウンターに歩み寄ると、ずんぐりとした背中の右隣に座った。
「おせーよ」
既にアルコールに濡れた声が文句を言う。
「今頃かよ。俺、もう酔っちまってる。まともな話なんか期待するなよ」
「マッカランをロックで」
よっぱらいの戯言など相手にせず、桂は顔の輪郭さえ定かではないバーマンにオーダーした。

左隣の男は返事をしない桂にかまわず、右手の指先でカウンターの上でリズムを取り出した。
店内に低く流れているどこかの民族音楽をなぞっているつもりかもしれないが、どこかずれていて、それが逆に物悲しく響く。

「田口。なぜだ」
「何が」
「なぜ、嘘をついた」
「お前のためだ」
「・・・詭弁はお前には似合わない」
はん!と田口はグラスに残っていた液体を喉に流し込んだ。

「俺には似合わないものばかりだ。
お前はいいな、何もかもが似合う男だからな。
愛らしい留学生キム・セヨン、華麗なフォームの射撃、人殺しなのに称賛されたスナイパー・K、洒脱な翻訳家、燃えるような目をした杉本静流・・・、お前、これ以上、何がほしい?」
「田口!!」

静かに激昂する桂に、田口はちらりと視線を走らせた。
その目には蔑むような嘲笑があった。

「殴るか?殴ってもいいぞ。
って言うより、会うなり殴られると思っていたんだがな。
なのにお前は冷静に酒をオーダーした。相変わらずスカしてやがる。
こんな酔っ払い、殴る価値もない、お前の目がそう言っているよ、おエラいもんだ、気鋭の翻訳者様はヨ」

愚痴のように悪態をつくと、手にしていたグラスを上げ、バーマンにお代わりを催促する。
カウンターについた肘がするりと滑り、体が大きく傾いだ。
シャツの胸ポケットからスマートフォンが零れ落ちそうになり、慌てて抑える。
言葉こそ危うくないが、田口はほとんど酩酊状態だった。

「田口」
「マジに知りたいってなら教えてやる。でも、長いぞ、覚悟しろよ。
途中で止めたりしないからな、最後まで、きっちりと聞いてもらうからな。
いいんだな?」

しつこく念を押す田口に、桂は無言で応えた。
帰国してから8年。
桂は田口を通して世間と向き合ってきたと言っても過言ではない。
彼がいなければ今の桂はない。

だからこそ、彼が嘘をついた理由が知りたかった。
取り戻せない17年間を嘆く前に。

「お前さぁ、キム・セヨンをお前に紹介したのは俺だってこと、忘れてないよなぁ?」

もちろん、覚えている。もともと田口はセヨンの日本語教師だったのだから。

田口と桂は第二語学で同じ講義を取っていたことから顔見知りになり、いつか講義の合間にお互いのアパートで時間つぶしをするほどに親しくなっていた。
もっとも、お互いバイトも忙しかったし、さほど遊びまわっていたわけではない。
大学3年になった春、田口が「もう一つバイトができた」と言った。

「できた」という言葉に引っかかった桂が突っ込んで聞いたところ、韓国からの留学生に日本語を教えることになったという。
田口が入学直後からアルバイトをしていたのは焼肉店だった。
さほど仕送りの多くなかった田口にとって、まかない付きのアルバイトはうってつけの上、如才ない性格が幸いしたのか、当時はホールを任されるほどになっていた。
その店長が田口をみこんで、来日した姪の日本語家庭教師を依頼されたのだった。
彼女は半年日本語学校に通い、後期から近くの女子大に留学生として通う予定だが、個人的にも日本語を習いたいと希望していた。
女子学生の家庭教師にしなかった理由は、その店長が女好きで女性では揉め事が増えると妻が反対したからだという。

実際、当時の焼肉店のアルバイトは男子学生限定だった。
店長はよほど恐妻家だったようだ。
姪は店長の家でホームステイしていたが、日本語を教えるのは店長の目が届く焼肉店のバックヤード。
常に焼肉店でバイトをしている田口にとっては、手間も省けてメリットの方が多いという話だった。

「どんな子だ?」と話の流れで桂が尋ねると、「韓国のオンナだぜ?気ばっかり強くて、全然素直じゃないし、口答えばっかりでちっとも日本語を覚えない」と、辟易するように答えた。
桂は容姿を聞いたつもりだったのだが、うまくはぐらかされだと悟ったのはかなり後になってからだった。

三月後、その田口から「ちょっと相談がある」と連絡があった。
父親が脳溢血で倒れたのだという。
田口の父は地方では著名な金属加工工場を経営していた。
商社勤務の兄がいずれはその工場を継ぐことになっていた。
しがらみもなく気楽な次男坊は語学に進みたいと望んだところ、「軟弱者!」という父親と大喧嘩になり、最終的には家出同然に出てきたのだという。
母のとりなしもあり、学費や最低限の仕送りはあったが、意地を張った田口は入学以来一度も帰省をしていなかった。

ところが、兄が海外赴任中に父が倒れてしまった。
幸い症状は軽く2カ月ほどのリハビリで復帰は可能だということだったが、心細くなった母親が帰省を望んでいるという。
マザコン気味の田口は、これを機会に仲直りを望む母親の気持ちをむげにすることもできず、しぶしぶという態を取りながらも帰ることにした。

焼肉店のほうは、田口に任せきりだった店長がホールに復帰するということで何とかなったが、姪の家庭教師は誰か代わりを紹介してほしいと言われたらしい。
あとから知ったことだが、田口は何人かに打診したのだが、夏休みは稼ぎ時とばかりにフルタイムのアルバイトや、地方のリゾートホテルなどに住み込み、短期留学などで忙しい人間ばかりで、誰も引き受けてはくれなかった。
結局、桂に話が来たのは夏休みに入ってから、田口が三日後には帰省するという午後だった。

「・・・俺はね、お前に紹介なんかしたくなかった。絶対に嫌だった。
でも、まぁ、心のどこかで油断はしていたよ、まさかとは思っていたんだ。
だって、あの頃、お前には可愛いカノジョがいたしな」

そうだった。
当時、桂はお互いのアパートで同棲ごっこをするほどの恋人がいた。
ミス文学部と噂をされていた才媛で、桂とはとてもお似合いだと言われていた。

だが、桂は、セヨンと出会ってしまった。

夏休みも終わるころ、田口はアパートに戻ってきた。
焼肉店のアルバイト復帰は歓喜を持って迎えられたが、セヨンの家庭教師の復帰は認められなかった。
何よりも、セヨン自身がもう家庭教師など必要ないと言い張ったからだった。
実際、田口が帰省していたたったひと月半でセヨンの日本語は目を見張るほどに上達し、講義の聴講も問題ないという。

「当然だよな。優秀なお前が教えたんだものな。
外国語を勉強するには、その国の恋人を持て。はっ、まったくもって正論だな。
・・・俺はねぇ、あの夏の後、結局、親父とは和解できないままになった。
夏休みの間はうまくいきかけていたのに、それっきり帰っていない。
あの時親父が倒れなければ、あの時俺が帰省しなければとどれほど悔やんだことか。
父親の状態はさほどひどいもんじゃなかったし、1週間くらいの帰省でも次男の役目は十分果たせたと思う。
なのに、母親に泣きつかれてずるずると長居をしてしまった自分に腹が立って腹が立って。
お前は・・・、同居している兄夫婦に悪いからと帰省しなかった。
・・・ホントにお前って、ずるいよなぁ」

氷だけになったグラスを手の中で転がし、田口はからからという音に耳を傾ける。

桂はあの夏を思い出した。
田口が紹介してくれたキム・セヨン。
笑顔を浮かべながらも引き攣った頬を隠せなかった田口。
その横に立っていたすらりとした女の子は、まっすぐに桂を見返してきた。
まだ10代を色濃く残したふっくらとした頬に奥二重の大きな目。
好奇心いっぱいに桂を見上げてきた愛らしい表情には、まるで曇りがなかった。
美人の基準から言えば、当時の恋人のほうが数段上だったと今でも断言できる。
けれど、屈託なく笑う一つ年下の女の子に、二十歳の桂は一瞬で惹かれてしまったのだ。
それはセヨンも同じだったと後ほど知った。

若い二人は教師役と生徒役という立場をあっという間に滑り落ちた。
無意識に絡み合う視線の熱さにおののき、恐れ、けれど離れられなかった。
夏休みが終わり、元恋人とのささやかな修羅場、二人の仲に気づいた田口が顔色を変えるなど少々のトラブルはあったが、それも時が解決した。
ゼミの同じ田口とは顔を合わすことも多く、お互いにぎくしゃくした時期もあったが、いつの間にか屈託なくしゃべりかけてくる彼に桂は胸をなでおろした。

「お前、ホントになんて言うか、好青年、だったよなぁ」
田口の皮肉な口調は止まらない。
桂は、黙ってグラスを傾けた。

「ミス文学部を恋人にしていたときだって、あからさまにひけらかすようなことしなかったし、彼女と別れるときもへんに言い訳しなかった。
それが逆に嫌味に見えるってことにも気づかないほど。
あの子だって本当にイイ女だったよなぁ。
お前のこと好きだったからこそ、別れた後も絶対にお前の悪口を言わなかった。
お前は知ろうともしていないけれど、あの子、地元に帰って教師になっている。
同僚と結婚して今じゃ3人の子どもの母親だよ」

別れるとき、自分は何と言ったのだろう?
確か、「ほかに好きな人ができた」とそれだけ。
好きだったからこそ、嘘だけはつきたくないとストレートに告げた。
若かった自分がどれほど彼女を傷つけたか、不惑を超えた今だからこそ胸が痛む。

「俺の気持ちだってわかっていたはずなのに、まるで気づかないふりを通した。
ホントに腹が立つ男だよな。
セヨンとのことだって控えめにのろけるだけで、なんかいつも、・・・いつも清廉潔白、公明正大ですって、笑顔で言っているようだった。
今思い出しても反吐が出そうだ」

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きらきらひかる・・・

日記

というドラマがありましたね、その昔。
確か、松雪泰子さんが刑事で、鈴木京香さんが監察医で、主人公であり新米の監察医が深津絵里さん???
いや、うろ覚えなので、突っ込まないように。
上司が柳葉敏郎さんで、鈴木京香さんの妹が篠原涼子さんだったような・・・。

漫画もありましたよね、ドラマとは全く違うけれど、同じタイトルだったと思う。

まぁそれはおいておいて。

ええ、キラキラ光っているのですよ、私の目の前が。
いや、視界が、というべきか。
三日前、目が覚めて起き上がった途端、目の前を金色に近い黄色の稲妻のような光が横切って、以来、頭を動かすたびに、
視界の中を鋭い光がサーっと走るわけです…(--;)
仕事には行ったけれど、心配ですぐネットで調べましたよ、ええ。
どうも「閃輝暗点」と呼ばれる症状らしいと分かり、吐き気やめまいはないので軽症何だなと自己判断。
でも、中には脳の病気が潜んでいることもあると書いてあるので、一応、いつもかかっている眼科へ。
何しろ、あくどいことに愛するクンホやリュウを脳腫瘍にして逝かせてしまっているワタクシなので・・・。

視力検査や眼圧、目の奥のレントゲンまで撮ってみて、先生の判断も「閃輝暗点」でしょうとのこと。
特に心配はないとのこと。
まぁ、安心と言えば安心で…。

いかし、この眼科には、アレルギーやな何やらで半年に一度くらいお世話になっているのですが、
院長先生曰く、「両目とも0,1を切っているけれど、日常生活はどうしているんですか?」
はぁぁぁぁぁ~~~~~?????
先生、診察があるからと裸眼にしていましたが、グラスチェーンでつるしている眼鏡は見えませんか!!!!!!!
先生の方が目が悪いんかい!!!

まぁそんなこんなで心配はいらないんだろうなと思いつつ、でも、今も頭を動かすたびに光が走る。いや、奔る!
なんか、目障りで目障りで…。
その上、今日は視界の右側だけに黒い線も見えるし、窓ガラスにぶつかってひしゃげた雨粒のような、ぼよんとしたものも見える。
大丈夫か?本当に?

腰も相変わらず痛いし、目もこんなだし、私、大丈夫かしらん。
いや~~~、不安だわ。
マジに。


さて…、え~と、今日は19日です。
二日前、私は怒っておりました。
朝、夫が朝の徘徊(^^;)で購入してきた産経新聞を読んだわけです。
一面トップは稀勢の里の引退の記事でした。一面の3分の1くらいも占めておりました。
テレビ欄の裏(23面)も稀勢の里関連の記事が大きく紙面を飾っていました。
スポーツ面もしかり。

阪神・淡路大震災の記事はどこですか?
24年前の1月17日の午前5時56分。
関西に住んでいた私ももちろん、揺られました。
夫の同僚は家の下敷きになり、会社からみんなで駆け付けてがれきの中から引っ張り出しました。

思わず私、新聞の中に大震災の関連記事を探しました。
22面、皇居での歌会始で天皇陛下が読まれたお歌、2面の社評、3面の正論(阪神大震災に触れながらも、論旨は関東でいずれ起きるであろう災害への対策指針)だけでした。
稀勢の里関連記事の何分の一でしょうか?

もちろん、翌日の一面には震災関連イベントの記事が掲載されていました。
でも、それで終わりですか????

1日中、むかむかして、その上、目の前はキラキラしているし、ホントにいらいらした1日。

阪神・淡路大震災をはじめ、多くの災害で亡くなられた方の冥福をお祈りいたします。
被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。

私が今、ここでこうして呑気に日記なんか書いて、自分の体の変調に不安になれるのも、奇跡なのだと思っています。
たまたま今までは幸運だっただけに過ぎない。
いつ、なんどき、自分が不幸に見舞われるのか、それは誰にも分らない。
日本で、否、世界中で起きている自然災害の頻度を考えれば、被害にあわないでいるほうが難しいような状況になっています。

今、生きていることが奇跡。
だから、いつも祈って生きていくのかもしれない。

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成人式、おめでとうございます

日記

今日は成人式。
成人式を迎えられた皆様、そして、そんな方たちを育み、慈しんでこられた皆様、おめでとうございます。

今年、成人式を迎えたのは125万人だそうです。
昨日、今日と、私の住むエリアは穏やかで心地よい晴天に恵まれました。
北海道ではマイナス28度!!!なんて驚くような寒さを記録したようですが、こちらは風もなく成人式日和でしたね。

振り返れば、長女の成人式の日は、関西は(多分全国的に)大雪。
うちは会場にも着付けをお願いしていた(酷い)美容院もすぐそばだったのでさほど被害はなかったのですが、
間に合わなかった人やせっかくの晴れ着をべちょべちょにしてしまったお子さんも多くて、かわいそうでした。

それももう思い出というカテゴリーに入ってしまうほど、昔のお話で…(^^;)

年末から痛かった腰も、ここ数日は鎮痛剤を飲まなくても眠れるくらいにはラクになりました。
あと数日かなぁと思っているのですが・・・。
さすがに仕事中は痛みは意識しなくて済むのですが、職場を背にした途端、しくしくずきずき痛み出すんだもんなぁ~。
明日からまた仕事だし。
今月は年始にお休みした分、ツメツメのスケジュールになっているので忙しい。
ぼちぼち頑張りまする。

そうそう、昨日、やっと初詣に行ってきました。
年末年始、夫婦そろって体調が悪かったうえに徳島帰省でばたばたしていたし、私の腰痛はあるしで延び延びになっていた初もうで。
一昨年は富岡八幡宮、昨年はご近所の神社めぐり、今年は神田明神か湯島天神かなんて言っていたのですが、
結局、東西線一本で行ける富岡八幡宮と深川不動尊さんへ。
富岡八幡宮は、一昨年末のあの騒動があったので敬遠したかったのですが、
そんなことがあったことさえ忘れていた夫に、「行く人は行くんだから大丈夫!」なんて説得されていっちゃいました。
でも、1月も中旬だというのに、富岡さんも深川さんも善男善女が溢れていました。

今年もどうぞ健やかに穏やかに暮らしていけますように!
皆さんもね♪


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愛を刻む夜に 第二部【第4話】

愛を刻む夜に

【第4話】


どれほど呆然とした時間が過ぎたのか、桂がセヨンと呼んだ女性は表情さえ失って立ちすくんでいる。
衝撃の強さに薄紅に刷いた唇さえ色を失い、わななきを抑えきれない。
桂は、ゆっくりとサングラスを外した。
これほどに容貌が変わり、サングラスもしていたというのに、自分を見分けた彼女にどう応えればいいのかわからない。

周囲の目が突き刺さってくる。
小さなざわめきが不審と好奇心をくるみこんで、楽しげに盛り上がる気配を漂わせるよりも早く、彼女を背後から支えていた男が背後に向って鋭く叫んだ。
日本語ではなかったので、物見高く眺めていた人間たちには意味は分からなかっただろうが、すぐに買い物客に紛れていたカジュアルな格好の男女が駆け寄ってくる。

その足音に、彼女は、はっと姿勢を正した。
目に浮かんでいた驚愕と絶望の光が、一瞬、火を放つようにして消えた。
自分を支えていた男の手を素早く振り払うと、その指で頬の涙をぬぐい、桂の顔を鋭角に仰ぐ。
彼女の足元で、ヒールが一度だけカッと鳴った。
その立ち直りの速さに、彼女の現在の立場と二人の間に横たわる歳月が垣間見えた。

何事かを背後に立つ男にささやくと、それをまた男が駆け寄ってきたスタッフたちに伝える。
女性スタッフが彼女を囲むようにして背を向けると、男は残った男たちにさらに何か指示した。
男たちが興味津々な視線を砕くように駆けてゆく。

その場に残ったのは、若い男と桂だけだった。
買い物客たちは期待したほどの修羅場がないことを悟り、名残惜し気に日常の買い物へと戻っていった。

「こちらへ」
若い男が陶器のような顔を向けてそういう。
桂は逆らわなかった。
男の数歩後を歩きながら、買い物客に交じってこちらを凝視している視線に気づく。
桂の右側なのでその姿は見えないが、視界の闇を裂くように突き刺さってくる強さが誰なのかを教えてくれる。

セヨンか、静流か。
いったい誰を探してここまで来たのか、桂にはすでに分からなかった。

若い男が案内したのはショッピングモールの駐車場だった。
もっとも店舗関係者用なのか、一般客の姿はない奥まった場所にあった。
促されるままにセダンの後部座席に乗ると、彼は無言のまま車を出した。

十数分後、桂は鮮やかな夏の陽ざしを帯びた葉群れの中にいた。
這いずり回った獰猛なジャングルとは似ても似つかない爽やかさに、懐かしさと忌々しさが吐き気のように湧き上がる。
もっとも、今回は、磨滅するほどに磨かれたガラスウォールを隔てているが。

霊峰を仰ぐ裾野にはいくつかの湖があり、そのすべてがリゾート観光地になっている。
桂が乗った車はその中でも一番俗化された湖畔を半周ほど巡り、するりと林の中へと入りこんだ。
深い森の懐深く、樹海に迷い込んだのではと思われた頃、目の前に現れたのが瀟洒な建物だった。
桂はその一室に案内され、既に10分以上、待たされている。

桂はガラスウォールの前で振り返った。
特殊ガラスなのか、外の景色は鮮明に見えるのに、室内に注ぐ光は薄いベールのように柔らかな紗がかかっている。
応接セットは豪華というよりはスタイリッシュで、薄いベージュの壁にバランスよく掲げられているいくつかの額も現代アートの範疇だろう。

桂は胸ポケットに入れていたサングラスをかけた。
同時に観音開きのドアが軽やかに開き、その中央に彼女が立っていた。
体をゆったりと包むクチナシ色のワンピースに着替え、先ほどはシニョンに結い上げていた髪の毛を肩に下ろしている。

彼女はドアのところに佇んだまま、逆光のシルエットに向って恐る恐る口を開いた
「あなたなの?本当に?」
若い頃よりは幾分はスキーになった声は、既に湿り気を帯びている。
桂はゆっくりとうなずいた。

彼女は、不安定な道を歩いているかのように一歩一歩踏みしめながら近づいてきた。
あと一歩踏み出せば手が届く、そこで立ち止まる。
淡い光の中に浮かび上がる彼女の顔には、恐れと疑惑と困惑と、ありとあらゆる感情がせめぎ合っていた。

それでも、美しいと桂は思う。
出会ったとき桂は20歳、セヨンは19歳だった。
あの日から既に21年たっている。

「サングラスを取って」
桂がサングラスを外すと、彼女は目や鼻を一つ一つ確かめるようにみつめ、それから左手で桂の頬に触れた。
狭い視界の中で、指先が冷たい。
その目に驚愕の色が走る。

「右目・・・、見えないの?義眼?」
「ああ」

左手が頬を滑り、あごから首筋を這う。
醜い引き攣れに触れた指先が戸惑い、躊躇し、怯えたのがわかる。

「けが?いつ?」
「・・・8年前」

幼い子どものようなあどけない口調で、セヨンは質問を重ねる。
桂の脳裏にふいに夏の日が蘇った。
大学3年生と留学生の出会い。
まだ日本語がおぼつかなかった彼女は、目の前のあらゆるものを指さしては、「あれは?」「これは?」「なんて言うの?」「どうして?」と桂を質問攻めにした。
桂は根気よく答えていたが、そのうち面倒くさくなり、いや、それよりも次々と質問を繰り出してくる愛らしい唇から目を離せなくなり、いきなり口づけた。

あの時のセヨンの顔!
驚きのあまり、言葉さえ失ってただ大きな目をさらに大きく見張っただけだった。
ただ、すぐにその瞳は輝いた。
好奇心のためではなく、喜びの涙のために。

今の年齢の半分でしかなかったあの頃。
今、セヨンはその年月を超えて桂に触れ、あの時と同じように質問を重ねる。

桂は、幻をうつつのものにするかのように桂の輪郭を辿り続けるセヨンをみつめていた。
まだふっくらとしていた頬は鋭利に削がれ、よく狸のようだとからかった大きな目は少しだけ彫りが深くなって、目じりには漣のようなしわが刻まれている。
細い眉、高い鼻梁、完璧なメイクで彩られた顔は、愛らしさを喪った分、凛とした中にたおやかさをうかがわせる表情を浮かべている。

ふいにその唇が引き結ばれた。
痛まし気に見上げていた目に光が奔り、その途端、暗い視界で頬が鳴った。
セヨンの左手が桂の右頬を打っていた。
桂のロングヘアが足掻くように宙に跳ね、その揺れが収まったとき、既にセヨンは背を向けて庭を凝視していた。
眩い光が風に揺れ、木々をさざめかしている。

「なぜあそこにいたの?偶然なの?」

桂は頬の痛みを奥歯でかみしめると、サングラスでセヨンとの距離を取った。
「答えて」
19歳だったセヨンからは想像すらできない、人に命令し慣れた口調で言う。
けれど、桂の答えを求めていなかったのか、「いつ、日本に帰って来たの?」と、重ねて尋ねて来た。
「・・・7、いや8年になる」
「8年・・・」
セヨンの背中が、絶望したように繰り返した。
「私は10年になる、日本に来られるようになって。なのに、再会できたのは今頃、なのね」

セヨンが振り返る。
泣き笑いのような表情で、また桂を見上げてくる。
「私たち、年を取ったわね。18年、経ったんですもの、当り前よね」
「いや・・・、君は変わらないよ。昔よりきれいになった」
セヨンが鼻で笑った。
「目が不自由になったのは確かなことみたいね。
でも、あなたが齢を取ったのも確かだわ。
昔はそんなこと言える人じゃなかった。
ただまっすぐで、口先だけのお世辞なんてこの世に存在することさえ信じられないような人だったのに」

皮肉っぽく言い捨てると、彼女はまた桂に背を向けた。
磨き抜かれたガラスウォールに彼女の姿が映っている。
言葉とは裏腹に溢れそうになっている感情を押し殺そうと、かみしめた唇がかすかにふるえている。

「お世辞じゃない。今の君を見たら誰でもそう思うだろう。
・・・高校生ぐらいの子どもがいるようには見えない」
できるだけさりげなく言葉にしたつもりだった。
どれほど自分の絶望が深かったか、それはひとかけらでさえ感づかれないようにと。
ところが、「子ども?」と、セヨンが呆れたように振り返った。
「こども?子ども、ですって?」
声が低くなった。
せせら笑うように、綺麗なアイラインの先端がさらに尖る。

「何の話?この17年間、あなたを待ち続けていた私に子どもですって?
誰がそんなことを?
それとも、裏切ってしまった私への言い訳に困って、苦し紛れにそんなことを言っているの?」

乾いた声で畳みかけてくる彼女を見下ろし、桂は眉間に苦渋の皺をよせた。
口調は冷静で冷笑的だが、桂の両腕をつかんでいる彼女の両手が食い込んでくる。
桂は唇を引き結んだ。

「なんで黙っているの?もう言い訳さえ思いつかないの?」

いや、セヨンに伝えたい言葉は溢れるほどにある。
いや、それは恨み言に近かった。
違う。
愛の言葉だったはずだ。
セヨンを自分がどれほど愛し、どれほど大切に想っているか、そのために自分がどれほどの犠牲を払おうとも構わなかった。
けれど、それは、あの日、一本の電話で砕けた。
確かめる術さえなかった。
電話は切られ、手紙の返事もなかった。伝言さえ届かなかった。
その沈黙を、桂はセヨンの答えだと思うしかなかったのだ。

今では、誰に対する恨み言なのか。
セヨンか、結婚を反対した大人たちに対してなのか、セヨンの心変わりを告げた彼へなのか。
それさえ分からなくなっている言葉は澱のように体の深いところに沈んでいるが、今さらかき回す術もない。

「ケイ!」

桂の言葉をせかすセヨンの言葉は、既に悲痛になっている。

その表情を見て、桂は、はっと我に返った。

何かが違う。

「セヨン、俺は、君が結婚したと聞いた。
いや、もう子どもが、身ごもっているから結婚すると」

桂をなじろうと口を開いたセヨンが、眉を寄せた。
くっきりと紅の刷かれた唇が、吐息だけで「え?」と問いかけてくる。
眉の間が白く開き、呆けたような表情で桂を見上げる。
セヨンの美しい唇がゆっくりと閉じられ、それから、「あっ」と悲鳴を上げた。
その顔に悲痛な色が漣のように広がってゆくのを見て、桂は自分の顔からも血の気が引いてゆくのを感じた。
二人、呆然と顔を見合わせる。
絡み合った視線がお互いに突き刺ささり、桂は目を見開いた。

「嘘よ!私が結婚だなんて、ましてや、ましてや子どもだなんて!!
ひどい!誰がそんなことを言ったの?」
「セヨン!」

そして、同時に二人は悟った。
誰がそんなウソを桂に伝えたのかを。

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明けましておめでとうございますm(___)m

日記

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
昨年も大変お世話になりました。
今年もくれぐれもくれぐれもよろしくお願いいたします。

明日ははや七草がゆ。
ワタクシのお仕事も始まります。
思えば昨年の21日に仕事終いして、今日まで16 日間の年末年始休暇をむさぼってしまった(^^;)
もっとも、その半分以上は腰痛との戦いで・・・。

整骨院では解決できず、内科と整形外科のある病院でレントゲンやら何やらしてもらった結果、
「骨に異常はなし。帯状疱疹でもないですね。内臓的な問題も今のところないようですが・・・」
んじゃ、なんやねん!!!
最初は腰全体の痛みで目が覚めたけれど、いまは、背骨から左側、左わき腹、おへそから左側、つまり、体の左側だけが痛い。
今は、シップと鎮痛剤でいきております、とほほ(><)
鎮痛剤飲まないと夜も眠れないんだもん。

とはいえ、徳島帰省は果たし、中学校の同窓会にも出席してきました。
5年毎の開催で、ホントに地元の幹事さんには頭が下がる。
私のテーブルには、赴任先のマレーシアから久しぶりに帰郷した人、
25年前の阪神淡路大震災でご主人がリストラされたのを契機に専業主婦から保険のおばちゃんになり、
今は京都でトップセールスを誇る人、
パートを二つ掛け持ちで70歳までは頑張ると宣言する人などなど、おしゃべりの話題に事欠かない人が多く、
面白かった~♪

中学校を卒業してン十年余。
それぞれの人生はみんな波乱万丈。
卒業アルバムをもとに作ったスライドも充実していたので、しみじみしたり、爆笑したり、楽しい3時間でした。
でも、亡くなっている同級生も10人ほどいると聞いて、元気に同窓会に出席できたことは本当に幸せなことなのだと痛感しました。

てなことでこの16日間、あっという間でございました。
今は鎮痛剤が効いていて痛くないけれど、切れると痛いんだよな、これが。
友人の中にはぎっくり腰でも毎日出勤したというツワモノがいるので、弱音は吐けないけれど、痛いよん!!!

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Author:tomtarow
好きな俳優さんをモチーフに妄想話を書き続けています♪

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